連載 ── 考えること、学ぶこと。 オンラインで講義をつくる 鈴木 敏恵 profile 第2回 オンライン講義を成功させる3つのマネジメント

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第1回では、オンライン学習の目的は単なる「講義のオンライン化」ではなく、学習者が自らのビジョンを実現するために、多様な手段で知識を手に入れて成長する新しい教育であることをお伝えしました。第2回では、この目的を果たすために必要なマネジメントについて解説します。

 

マネジメントとは“活かす”こと

 

同じ機会を与えられても、高い成果をあげる人とそうでない人がいます。それと同様に、90分のオンライン講義であっても、受講生の意欲を高めて成長させる講義があれば、逆に意欲がまったく高まらず成長の手応えのない講義もあります。前者はスタートする前から「より高い成長・成果を生み出す!」という講師の意志や明確なビジョン、何よりそれを実現させる創造的なマネジメント力があると言えるでしょう。

 

マネジメントとは、人やモノ、金、時間などを有効活用し、うまく物事を運営し維持、発展させていくことを意味します。しばしば「管理」と訳されますが、「管理」ではなく「活かす」ととらえるべきです。「管理」は現状を支障なく維持するイメージが強く、ワクワク感がありません。しかし「活かす」には未知や可能性があります。人を活かす、時間を活かす、機能を活かす、環境を活かす……そのために自分たちの知能、感性、ひらめきをフルに使うという意味です。そこには魅力や目に見えない価値ある成長があります。

 

マネジメント(management)とは?────────────────── マネジメント=「管理」「管理」とは‥業務管理、品質管理など、ある規準から外れないよう、制御、統制すること。空調管理など状態を保存・維持していくこと。 ↓ ↓ ↓ マネジメント=「経営・活かすこと」 ◎「経営」とは‥目的を達成するために継続的に計画を立て向かうこと。ヒト、モノ、カネなどを戦略的に活かす人間ならではのアイデアや創造力を要する。

 

オンライン学習のマネジメントとは

 

オンライン学習のマネジメントとは、ICTや環境、機能、システムなどを戦略的に活かし、より高い学習成果や成長、モチベーションアップを実感できる仕組みや戦略といえるでしょう。つまり、教育の目的を達成するために今ある資源をどのように活かせばいいのかを戦略的に考え、実行するマネジメントです。

 

ここでいう資源とは、何かを生みだすために必要なものを指します。また「どう資源を活かすか」に加え、オンライン講義ならではのメリット・デメリットや課題を踏まえておく必要があります。

 

ここで、改めてオンライン授業のメリット・デメリットや課題を挙げてみます。

 

〈メリット〉・対面で人に会わないので感染の恐れがない・指導者と学生、学生同士が互いに目の前に見て話すことができる・在宅で参加できるので通学時間が不要・必要な際には、外部の専門家、ゲスト、当事者に容易に参加できる・自分の生活時間を中心に学習のスケジュールを組むことができる・慣れた環境で緊張せず集中して学べる・自立・自律が身につく・自席にいながら参加できるので、手持ちの資料や研究結果をすぐ活かすことができる・自分の部署の仲間と意見を出しながら参加できる・共通のテーマや研究の仲間と距離を超えて学ぶことができる・多くの人が一斉に視聴できる ほか 〈デメリット〉・ワンクリックで入退室となり、気持ちの切り替えの間がない・雑談やちょっとした立ち話など、人間的なふれあいが持ちにくい・部屋の中だけなので新しい出会いにつながりにくい・気軽に周りにいる人とテーマや課題について意見交換できない・現実の事態や状況を資源とするリアルな研修ができない・対面のような気づきやコミュニケーションが得にくい・気配を感じて察する力や洞察力、共感などが得られにくい・内容に変化をつけても長時間視聴するのは限界がある・システムダウンや音声・映像のトラブルが起こりうる 〈課 題〉・操作の「間」があり、学習者の集中が途切れる・講師が一方的に話す、資料提示が続くなど、変化の少ない講義になりがち・学習者のネット環境、情報端末の違いにより受け止めに違いがある・二次元の画面をとおした情報提供のため集中力が継続しない・目の前に人がいない状態で講義するので抑揚のない話し方、音声になりがち。

[資料ダウンロード]オンライン講義のメリット・デメリット

http://suzuki-toshie.net/mm-images/mm655.jpg

 

 

オンライン学習を成功させる『SEE図』

 

オンラインで学習を成功させるためには、「環境」「教育」「自分自身」の3つのマネジメントを考えることが必要です。「Ⅰ 環境(Environment)マネジメント」「Ⅱ 教育(Education)マネジメント」「Ⅲセルフ(Self)マネジメント」の視点から、学習者が意欲を高め成長するカリキュラムを考えます。ここからは、それぞれの頭文字をとった「SEE図」を元に展開します。環境①〜⑦と、教育①〜⑥はそれぞれに関連し合い、最適なオンライン学習を実現します。

 

 

 

最も重要なセルフマネジメント 

 

オンライン学習の多くは、学びに集中するための「教室」ではなく、休息や食事などリラックスの場である「自宅」で行われます。学習者は私的な空間である自宅で、自らの意志をもって学びモードに移行できる力=セルフマネジメント力です。

 

3つのマネジメントの中でも「セルフマネジメント」が最も重要ともいえます。どんなに経費をかけて環境が整えられても、優れた教育カリキュラムが導入されたとしても、画面の向こうにいる学習者の意欲がなければ始まりません。

 

チャイムもない中、自ら学習時間を確認してデバイスの電源を入れます。ベッドやお菓子があるプライベートな空間で画面をとおして講師と向き合うことになります。画面をとおして目の前に他者がいるという慣れない状況で、自分の言葉遣いや姿勢を気にしながら一定時間講義を受けるには、相当なセルフマネジメント力が求められます。

 

セルフマネジメントとは自分で自分を律すること、コントロールできることとも言えます。それは窮屈な「自己管理」ではなく、未来へ叶えたい願いがあるからできることです。

 

ここにプロジェクト学習・ポートフォリオが活きます。プロジェクト学習で目的や目標を自分で決めて進むことを身につけます。ポートフォリオで、その自分を客観的に見ることができるようになります。

 

環境マネジメント

 

オンライン授業のコンセプト────────────────── 1. 正確な意思疎通──映像、音声の確実で質のいいやりりに妥協しない。2. 心が伝わるコミュニケーション──画面ではなく人に会っている意識で!3. 寛容さ──トラブルや問題発生はつきもの。計画どおりにとらわれない。

 

この3つをコンセプトに、ここから『SEE図』の左サイド「環境マネジメント」に不可欠な①〜⑦までを押さえていきましょう。

 

 

①通信インフラ

安定した通信環境を確保します。学校ではなく、自宅や移動先からオンライン授業を受けることもあります。また、通信状態を優先するためいつもの教室で講義ができるとも限りません。廊下を移動しながら撮影したり、街なかから発信することも想定します。

 

②デバイス

学習者がどのようなデバイスで講義に参加しているかを事前に把握しておくことで、最適なオンライン環境に近づけます。一人でもスマホで受講する参加者がいれば、提示する文字や映像のサイズに配慮が必要です。いずれにしても、オンライン学習をスタートする際のデバイスや通信環境の確認は欠かせません。通信機器などを貸与できる体制も有効です。

 

③機能(オンライン講義のさまざまな手段)

  • 一方向講義:YouTube、YouTubeライブ
  • 双方向性:Zoom、Google Classroom、Google Meet、Microsoft Teams  Cooling Meetingなど
  • 教育システム:ネット上のテキストや動画(教科・受験・資格/企業や専門家によるもの) ほか

 

どういう教育をしたいのか、その目的によってこれらの手段を複合的に組み合わせて使います。

 

<多様な手段で情報提供やリターンをする>

資料や動画を一方向で見せるだけではなく、講師と学生、学生同士がインタラクティブにやり取りする講義を目指します。そのためには、ワンパターンなやり取りにならないよう、上記のような多様な機能を使って考えや意見を出し合い、相手へリターンします。講師は質問やコメントをどんどんもらい、その場で応えることで講義は活性化するのです。

 

考えや意見をやりとりしたり、相手へリターンする方法はさまざまです。例えばZoomの「画面共有」や拍手や共感などの機能がありますが、それだけでない意思疎通や、心が伝わるコミュニケーションを取り入れることで、あえて人間らしさを大切にします。

 

チャットでどんどん意見を出し合う スケッチブックを使い「手書き」で説明する

「表情」と「ジェスチャー」で伝える 「バーチャル背景」機能を使い、手で示す

 

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連載のはじめに

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会   (C) 2020 Japanese Nursing Association Publishing Company.

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