ケアする人のためのワークショップ・リポート

第3回 井尻 貴子

(西原 尚《ブリンブリン》2015年)

みたものを言葉にしてみる

 

会場に入り、ナビゲーターに案内されるままに、会場を進み、指定された作品の前で足を止める。

 

ひとつ目の作品。巨大なベルトコンベアのような装置だ。

 

「黒い袋が、ベルトコンベアで運ばれ、滑り台のような傾斜をゆっくりとのぼっていっています」

 

参加者の一人が、口をひらく。すると、

 

「一番上までいくと、ぼとっと右側に落ちちゃう」

「落ちた下には、布のようなものが広がっていて」

「けっこう分厚い、幕のような布」

「袋がそこを転がっていっている」

「下まで落ちると、またベルトコンベアの入り口にいくようになっていて、また滑り台をのぼりはじめる」

 

そんなことが、口々に話された。

 

「いまので、イメージわきますか?」とナビゲーターの木下さん。視覚障害のある参加者に声をかけながら、みずから「その黒い袋は、何個くらいありますか?」と聞く。

 

「4つ」

「あ、4つだけなんですね。もっと大群を成しているのかと思った」

「大きさは?」とほかの参加者。

「枕くらい」

「けっこう大きい」

「ソーセージみたいなかたち」

 

 

 

 

私は、意外さを感じながら聞いていた。というのも、ぱっとみた瞬間、私にはその黒い袋が、巨大なカブトムシのように思えていたからだ。カブトムシがゆっくりベルトコンベアで運ばれていき、高いところから落とされる。それが繰り返される。終わりのない処刑台のような印象を受けていた。

 

しかし、「ソーセージ」となると、また違った印象を受ける。作品が喚起する感情・印象が、やるせなさや哀しみのようなものから、おかしみやおろかしさのようなものに変わるように思った。

 

ここで、ある参加者が口をひらいた。「あと、右側に、楽器があります。みたこともないような楽器。ギターがあるんだけど、逆さまに突き刺さっている」

 

他の人もあとに続く。「手押し車みたいな。押すと、音がなるようになっているんじゃないかな」

 

そこから、音の話になった。ベルトコンベアが発する音。

 

「白鳥がいっぱい泣いているような音だよね」

「聞いていられる?」

「私はちょっと苦手かな」

「苦しそうな感じがする」

 

ここで、ナビゲーターが「タイトル、予想つく人います?」と問いかけた(ツアーの最初に、作品名や作家などの情報は適切なタイミングでナビゲーターから提示するので、すぐに参照しないようにと案内があった)。

 

「不協和音の和」「世界」「ソーセージ再生利用機械」などがあがった。そう言われると、また違った印象をもって作品がみえてくるからおもしろい。

 

最後に、キャプションに書かれた情報が読み上げられた。西原尚「ブリンブリン」(2015)。わかったような、わからないような気持ちになって、次の作品にむかった。

 

(片山真理さんの作品)

 

 

ひとりだなって感じるときは?

 

2つ目の作品は、壁にかけられた作品だった。

 

「写真ぽいんだけど、写真ぽくないところもあって。絵かな」「ぱっと見は、写真にみえてた。光の感じが写真ぽい」と参加者たち。

 

「そうなんだ。ほかの方、どうですか?」とナビゲーター。

 

「お皿がある。液体が入っているんだけど、お皿の柄の花から溶けでたみたいな感じ」

「お皿には、ピンクの花が10個くらいかかれている」

「お皿だけで、人はいない」

 

ある参加者が問いかけた。

 

「ここには、誰がいる/いたと思います?」

「ひとりの感じがする」

「どのあたりが?」

「うーん」

「なんとなく。人の気配がしない」

「ひとりでご飯をたべるときの光景に似ている」という人もいた。

 

また、ほかの人が問いかけた「ひとりだなって感じるときはある?」「大勢のなかでひとりのときかな」別の1人が答えた。

 

作品のタイトルは、『そこの階段をのぼると、ああ私は独りなんだなって思う』(2015)。松川朋奈の絵画作品だった。

 

鑑賞のなかで、自分が今、何をみて、何を感じているかを話していく。自分の言葉をとおし、自分が今、何をみて、何を感じているのかを改めて知る。それに対しかえってくる言葉、反応により、また気づくことがある。そうして自分の考えに気づき、他者の考えに気づく。そこから新たな発見を得る。そんなふうに時間はどんどん過ぎていった。

 

この日、私が参加したグループは、全部で4つの作品をみた。作品の前に立ち、言葉を交わしながら、じっくりみていく。1作品あたり、20分〜30分だろうか。ひとりで美術館を訪れても、ひとつの作品をこれだけ時間をかけてみることは、なかなかないと思った。

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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