連載:ケアする人のための
ワークショップ・リポート
文・井尻 貴子
(写真・中島佑輔)
この連載について...
第3回:みえるものと、
みえないものと。
(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)
みえていることは皆同じ?
待ち合わせは、蜘蛛の下(六本木ヒルズ66プラザに設置された「ママン」という作品)。すでに数人が集まっていた。受付をすませ、スタッフの方と少し話す。今日は18名の人が参加するという。
この日の目的地は、森美術館「六本木クロッシング2016展:僕の身体(からだ)、あなたの声」。参加者が集まったところで、代表の林さんからワークショップの内容、流れについて簡単な説明があった。
ワークショップの内容:この「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」では、おしゃべりをしながら作品を鑑賞していく。
スタッフとナビゲーター:この日のナビゲーターは計6人。参加者はグループにわかれ、各グループのナビゲーターと一緒に見ていく。
鑑賞方法の説明:おしゃべりをしながら…といっても、どういうことを話すのか。林さんは次の2つのことを話してほしいという。
「みえていること」と「みえていないこと」。前者は描かれている色やかたち、モチーフのことなど。そして後者は印象、感想、解釈。たとえば「怖い感じがする」「楽しい気分になる」など。どちらも、重要だという。
「みえている人は、普段わざわざ、みえているものを言葉にすることはしないかもしれないけれど、あえてやってみて。みえていることは皆同じだと思ってしまいがちだけど、実は人によって違うかも」「みえていないことは、言葉にしないと他の人にはみえない。だから、どんどん言葉にしてほしい」
作品についての「正しい解釈」はナビゲーターも知らない。かれらは教える立場ではなく、みんなと一緒に考える存在であることも伝えられた。
そして最後に「やってみなきゃわからないこともあると思うので、やってみましょう」とひとこと。
うなずく参加者たちがいた。
グループにわかれる
鑑賞を始める前に、3つほどのグループにわかれる。私のグループのナビゲーターは木下さんと大平さん。各グループごとに視覚に障害のある人、ない人が1人ずつ入る。
木下さんは全盲の男性だ。昔はみえていたこともある、という。大平さんは晴眼者の女性。ワークショップは毎回発見があって楽しい、という。
参加者も、それぞれ自己紹介をする。初参加だという30代女性/人と一緒にみたり、それについて話したりするのが好きなので参加したという、こちらも30代の女性/中心視野が欠けていく難病だという50代女性と、一緒に来たガイドヘルバーの70代女性は「美術オンチなので、なるべく声をかけないでほしい」という/「まったくはじめて。楽しみにしてきた」という40代男性/視覚障害があるという50代男性。
それに、私。計7人だった。
鑑賞時間は2時間程度。みんなの様子にもよるが、3〜4つの作品を見ることが予定されている。さっそく、展示会場へと向かった。
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