ケアする人のためのワークショップ・リポート

第2回 井尻 貴子

「きちんと、しっかり」を捨ててみよう

 

音楽に苦手意識を持っている人は、実は多いのではないだろうか。

 

私も、そんな一人だ。リコーダーの指運びがスムーズにいかないとか、音程が外れてしまうとか、そうした経験があったせいで音楽をすることから疎遠になっていったように思う。だから演奏できる楽器もとくにないし、日常のなかで「音とあそぶ」ことなんてない。

 

でもここでは、楽器の演奏歴を聞かれるわけでもないし、その出来不出来を問われるわけでもない。うまく演奏しなきゃ、いい音出さなきゃというプレッシャーを感じる必要もない。

 

だから「どんな音がでるんだろう」とわくわくした気持ちのままに、楽器に触ることができる。どうなるかわからない流れに身を委ねているうちに、演奏に取り込まれてしまっていたりする。いつのまにか互いの音を聞きあって、自分の音を鳴らすのが楽しくなっている。その楽しさの秘密は「実験」という言葉にあるように思う。

 

実験とは、対象に操作を加えてそれによって生じる変化を観察したり、分析したりすることだ。ある仮説をそれを立証する結果を導き出すために実験をする。でもそれ以外にも何か目新しい手法を使ったり、本番前に試すという意味でも「実験」という言葉は使われる。

 

音あそび実験室には、後者の雰囲気がつよくあるように思う。「本番」ではなく「お試し」。だから、どんどんいろんなことをやってみていい。初めてのことも、どうなるかわからないことも気軽にやってみていい。そこに失敗はないし、やったことに対して怒る人もいない。コヒロコは何かを教える先生ではなく頼れる実験の仲間。そんな雰囲気がある。

 

だからどんどん積極的に楽器を触ってみたくなる。わくわくし、あれもこれもやってみたくなる。その「わくわく、どんどん」の気持ちが生まれることが、この「実験」の成果なのではないか。そんなことを思った。

 

私たちはときに「わくわく、どんどん」を封じこめ、「きちんと、しっかり」の精神を高めてしまう傾向にあるように思う。もちろんそれは必要なことだ。けれど一方で「わくわく、どんどん」を失った生活は窮屈なものでもある。日常生活にそんな気持ちを持ち込むことを忘れなければ、毎日がまた少し楽しくなるのではないだろうか。

 

 

ワークショップを「つくる」 ワークショップの目的、タイトルと並行して検討する必要があるのは、内容と講師だろう。何をするか。誰といっしょにするかだ。 何をするかは、仮にダンスということが決まっていても、もう少し具体的に絞っていく必要がある。たとえば、ダンスと一言で言っても、コンテンポラリーダンス、バレエ、舞踏などさまざまなジャンルがある。 講師(ファシリテーターと呼ばれることも多い)にも、それぞれの特色がある。ジャンルに加え、たとえばこども向けのワークショップをたくさん行っている人、大人向けのワークショップを開いている人では、その内容は異なるだろう。 ここでも、どんなワークショップの場をつくりたいか、具体的にイメージすることが企画者には欠かせない。そのためにはリサーチも必要だ。最近はインターネットで検索すればたくさん動画を見ることができる。加えて可能であれば、いちどはそのワークショップに参加してみることをおすすめする。 自分がなぜそうしたワークショップを開いてみたいと思ったのか、その人に頼みたいと思ったのか、体験から考え言葉にすることができる。もし難しい場合は、参加した人に話を聞いてみるのもよいと思う。自分が参加した場合でも、ほかの参加者にも感想を聞くことができたら、とてもよい。自分だけでは気づかなかった視点がきっとあるはずだ。 では、講師の候補が絞られたら、次にどうするか。お願いしやすく相談しやすい人に頼むというのも、実は重要なように思う。自分たちがどんなワークショップにしたいと思っているのかを遠慮せずに伝えることができ、そういう場をつくるためにはどうしたらいいかを一緒に考えていける人。 コヒロコの二人は、企画者と協働することを楽しんでいた。そこでは環境などによる制約さえも、ワークショップ内容を考えるヒントになっていく。そんな人を講師に迎えることができたら、運営者としてとても心強いと思う。

 

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第1回:からだを使って、新しいコミュニケーションの回路をひらく

〜 佐久間 新 さん(ジャワ舞踊家) >>

 

第2回:音であそぶ、音とあそぶ「音あそび実験室」

〜コヒロコ(音楽ユニット) >>

 

第3回:みえるものと、みえないものと。

〜視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ  >>

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