連載:ケアする人のための
ワークショップ・リポート
文と写真 井尻 貴子
第2回:音であそぶ、音とあそぶ
「音あそび実験室」〜コヒロコ
(音楽ユニット)
あちらこちらで音が鳴る
角を曲がると、いろいろな音が聞こえてきた。リコーダー、鍵盤ハーモニカ、太鼓の音も混ざっている。玄関先には、「音あそび実験室」の看板。
引き戸をあけると、たくさんの人が見えた。靴を脱ぎ、会場である「芝の家」にあがる。
芝の家は、港区芝地区総合地所と慶應義塾大学が協働で運営している地域の交流拠点、コミュニティスペースだ。「子ども、大人、お年寄り、住民、在勤・在学者、だれでも自由に出入りでき、みなさまと共にまちを考え創ることのできる場」という理念のもとに運営されている。火曜日から土曜日まで、週5日間オープンしていて、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年代の人が集まっている。この日行われていたのは音楽ユニット(アーティスト・音楽療法家)のコヒロコによる「音遊び実験室」だ。
板場の床には、たくさんの楽器がひろがっている。あまり見たことがないものもある。どうやって音を出すのか、一見しただけではわからないものや、「これ楽器?」というようなものもある。
楽器のまわりでそれぞれ演奏に興じる人たち。ギターをつまびく人の横で、太鼓を叩く子がいる。その横では赤ちゃんが別の太鼓につかまり立ちしながら、叩こうとしている。
傍らでは、お母さんが鈴のような楽器を手に、鳴らしている。その奥には、携帯ゲームに興じる小学生もいる。いろんなところで、いろんなことが起こっている。
譜面を見ながら、リコーダーの練習をしている子がいる。それにあわせ、鍵盤ハーモニカを吹く人がいる。それを見て、横笛に手を伸ばす人も。そんな様子がおもしろくて、少し離れたところに座って見ていると、一人の子が近寄ってきて楽器を手渡してくれた。
見たことのない楽器。どこかの国の民族楽器のようだ。少し、鳴らしてみる。しゃらんという音がした。あちらこちらで鳴っている音に、気になった音に合わせて、さらに鳴らしてみる。
あちらこちらで、演奏がはじまっては終わる。皆が思い思いに音とあそぶ光景がひろがっていた。
始まって1時間ほどが過ぎた頃、おやつの時間になった。ちゃぶ台が取り出され、周りを囲むようにしてみんなが集まる。いちど楽器を置き、お菓子をつまみ、お茶を飲み、一息いれる。
落ち着いたのを見計らって、コヒロコの一人、小日山さんが声をかけた。「ちょっとみんなでやってみようか」それをきっかけに「それぞれの音を聞く時間」になった。楽器ごとに、鳴らしてみる。演奏してみる。
太鼓、笛、にわとりもいた(押すと、くえーという鳴き声のような音が出る)。さっきまでの喧騒とはうってかわって、落ち着いた雰囲気のなか、みんなが、ひとつひとつの音に耳を傾けている。
今度は「聞くほうと演奏するほうに分かれてやってみよう」と小日山さん。大きくふたつのグループに分かれて、お互いの演奏を聴きあう。さっきまでゲームをしていた子も、いつのまにか加わっている。
続いて「全員で演奏してみよう」。「『ドレミの歌』やりたい!」という小学生の声に応え、誰かがメロディーを弾く。そのメロディーに合わせ、それぞれが手にしている楽器で合奏に加わる。「次は『翼をください』やりたい」と、リクエストが続く。
最後に「曲を決めないでやってみたい」と三宅さん。ゆっくり演奏が始まった。徐々に激しくなり、やがて落ち着いてきて……なんとなく終わったかなと思ったら、再び盛り上がっていく。終わったときは、みんな静かな空間を壊さないよう、しーんとしていた。笑いを堪えているような表情になっている子もいた。
「いまの曲にタイトルをつけてみよう」と小日山さん。子どもたちが中心になって、思いついた言葉を口々に叫ぶ「ぐしゃぐしゃ」「へんてこ」「なんでも曲」。
気づいたらもう夕方が近づいている。実験室は終了。音と遊んでいるうちに、あっというまに時間が過ぎていた。
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