連 載

ケアする人のためのワークショップ・リポート 井尻 貴子

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音とともに過ごす豊かな時間

 

講師をつとめたコヒロコは、小日山拓也さんと、三宅博子さんからなるユニット。2014年より隔月1回、芝の家で「音あそび実験室」を開いている。そこで提供されるのは「楽しみながら音にふれて音とあそぶ創造的な音楽実験の時間」だ。「身のまわりのモノや日常生活のなにげないコトからどんな音楽が生まれてくる?」という問いのもとに、各回趣向をこらした「実験」が行われる。

 

過去には、参加者の興味や関心にヒントを得ながら「うたのおんがく」や「ゲームでおんがく」「太鼓をつくってあそぼう」などを実施してきた。9回目を迎えた今回のテーマは「思うぞんぶん、遊ぼう!」。来場している近所の子どもたちと思いっきり遊びながら、自然に音あそびへと巻き込んでいく実験をしかけてみたという。実験室の開催中、基本的に出入りは自由で、この日は赤ちゃんから小学生、大学生、大人全部までのべ20名ほどが参加し、一緒に音で遊んでいた。

 

コヒロコのお二人にお話を聞いた。

 

──これまでにどのような「実験室」を開かれましたか?

 

参加者の興味や関心に応じて、弦楽器を集めてみたり、ゲームの音楽をテーマにしたり、ゲストを招いてうたづくりを楽しんでみたり。また、紙だいこづくりや、芝の家の「おまつり」でさまざまな楽器に触れることができる「音あそび屋台」など、各回工夫を凝らしてきました。今後は「よるしば」に来ている大人を中心とした人たちに好きな曲をリクエストしてもらい、鑑賞や演奏に巻き込んでいく「リクエスト企画」も行う予定です。

 

──印象に残っている出来事、エピソードは?

 

ある回で、縁側に寝かせたギターを鳴らすと、縁側に座っている人のお尻に音の振動が響くことを発見した人がいました。周りにいた人々がおもしろがって次々に真似をし始め、そのあそびは「ギターマッサージ」奏法と名付けられました。私たちファシリテーターが予想もしなかった音の面白さが発見されるたびに、はっとさせられます。

 

他には、確か録音をしていたときだったのですが、赤ちゃんがカタカタ音のする押し車で遊んでいたんです。それを見た大人が「静かに」と制しましたが、そばにいた子どもが「あれも音楽なのにね」と言ったことがありました。

 

──どんなことを大切にしていますか?

 

「芝の家」は単なる会場ではなく、地域コミュニティづくりのための拠点という特性を活かし、日常的に来場している子どもや大人の方たちを自然に「音あそび」に巻き込んでしまうような、しかけ・かかわり方を模索しながら「実験」をしている場です。そのように、参加者を募集して人が集うワークショップと違うところが特徴的な取り組みだと言えます。

 

また、ここへは音楽への興味、とくに実験的な音楽づくりに興味があって地域の外からやって来る人も多いのです(自分たちもそう)。そんな人たちには、このゆるやかな枠組みの周辺的な要素、つまりごはんやおやつの時にちゃぶ台を囲んだり、子どもたちやお年寄りとおしゃべりしたり、「芝の家」という空間でただ「ぼーっ」としたりする時間も大切なのではないのかなと、最近考えています。

 

音楽ワークショップとして大事にしているのは、 音楽を「教える」のではなく、楽しみかたを一緒に「発見する」ことや「実験する」こと。互いが音楽実験の仲間として、ファシリテーターも参加者もみんな対等な立場に立つことですね。物ごとの正しさを決めつけない、「まちがってるんだけどなー」「とんちんかんだなー」「かっこわるいなー」という発想こそ、辛抱づよく育てていけば強度のあるよいアイデアに育ち、多くの人に親しまれるようになるんです。

 

そういった意味も含めて「音楽」の枠組み、「参加」の枠組みをあらかじめ決めないで、参加者やその時起こった出来事に応じて、柔軟に変えていこうと心がけています。そのためには、いきなり「音楽」をしようとするのではなく、そこへ到るまでの関係づくりである「種まき」や「畑を耕す」ような時間を一緒に過ごすことが大事だと、最近あらためて感じています。

 

 

 

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