ケアする人のための
ワークショップ・リポート
連 載
井尻 貴子
「ケアする人のケアハンドブック 言語から身振りへーからだを
読み解く」より転載(撮影:天野憲一)
連載を始めるにあたって
「ワークショップ」という言葉を聞いたことがありますか? 初めてだという人もいれば、「最近よく聞くけれど、どんな意味かわからない」という人もいるでしょう…… 続きを読む ▶
第1回:からだを使って、新しいコミュニケーションの回路をひらく
── 佐久間 新 さん(ジャワ舞踊家)
思いがけない動き
一軒の古い民家。居間に入ると板場の床にテーブルが置かれ椅子が並んでいる。奥にはちゃぶ台と座布団。障子をあけると、縁側の向こうに庭が見える。2011年1月、当時「デイサービス 祥の郷」として使われていた場所だ。そこで働く介護職員向けにダンス・ワークショップが開かれた[注1]。
講師はジャワ舞踊家の佐久間新さん[注2]。といっても、伝統舞踊を学ぶわけではない。それは民族や文化などの違いを超えたもっと根源的な「人が人に向きあう体をどうつくるのか」という問いに迫るものだった。
テーブルや椅子を片付けてスペースを確保し、その時間は始まった。
◆
まずは、参加者全員が円になって立つ。
その後、ゆっくり「息を吸う」ワークへ。
口をめいっぱい開けて息を吸う、普通に吸う。寝転がって吸う。お腹の膨らみに意識をむけ、違いを感じる。
2人一組になって、同じことを繰り返し、互いのからだの動きを感じる。
そして「ねじる」ワーク。
からだのいろんなところをねじってみる。全体をねじる、ねじりながら動く。
2人1組となり、必ずどこか一カ所がくっついていることを条件として、スペースの端から端まで、障害物(この回はテーブルと椅子)をつたいながら移動する。
……障害物が邪魔になり、ペアの人と離れてしまう。
困った参加者から、思いがけない動きがどんどん出てくる。「いつもとは違う動きが出ますよね」と佐久間さん。
ペアの相手が変われば、また違う動きが引き出される。
最後に「身近なモノを使って動く」ワークを行う。このときは、割り箸を用いた。
2人組になり、からだとからだで割り箸を挟み、落とさないようにして動く。
他の参加者は、その動きをじっと見る。「引っ張るからだ」になったり「付いていくからだ」になったり、入れ替わったり。
5人ほどで割り箸を挟み、歩く。割り箸を落とさずに、距離感やスピード、動きの大きさを感じ、調整しながら動く。ちょうどよい感じを探りながら、つくりだす。
約2時間のあいだ、日常の動作とは異なるからだの使い方を体感した参加者からは、笑いや驚きの声が漏れていた。