ケアする人のためのワークショップ・リポート
井尻 貴子
この連載について
「ワークショップ」という言葉を聞いたことがありますか? 初めてだという人もいれば、「最近よく聞くけれど、どんな意味かわからない」という人もいるでしょう。「いや、よく知っているよ」という人もいるかもしれませんね。
ワークショップの定義はさまざまですが、ここでは「参加型、体験型の学びと創造の場」としておきましょう。
私が初めてワークショップという言葉を聞いたのは10数年前、大学生の頃だったと思います。それ以来、子どもや大人、障害のある人やない人など多様な人たちと一緒にワークショップと呼ばれるいろいろな場に参加し、また運営進行をし、企画をしてきました。
ワークショップでは、その場にいる人たちとさまざまなことを一緒に探求していきます。ああだこうだと考えたり、普段の自分なら決してしないようなこともやってみたり。そのうちに、自身がもつ思考の枠組みがぐんと広がることがあります。「だめだ、できない」と思っていたことも、簡単になったり、するっとできていたりするのです。
でも、私にとってのワークショップの最大の魅力は、そのように「できるようになる」ことではありません。むしろ「こうであってもいい」を発見していくこと、つまりこれまでの自分よりも「自由になること」です。あれこれ経験をするうちに、「こうあるべき」私が少しずつ姿を消し、「こうある」私に気づき、「こうであってもいい」私を発見していくのです。
「こういうこともできるんじゃないか」「こうしてみたらどうだろう」と思えたときに立ち現れるもの。それは、うごいたり、かんじたりするなかで出会う、新しい考えや視点です。こうした新しい人との出会い、新しい自分との出会いによってもたらされるもの。それは紛れもなく「自由になっていくこと」だと思います。
ここで私がご紹介するのは、さまざまな「ワークショップ」の探訪記です。これまで知ることのなかったさまざまな場があること。それがご自身の生活に関わったらどんなふうになるのかをちょっと想像してみてください。そして、よかったら自分でも参加したり、企画をしたりしてみてください。
そう、あなたにも「ワークショップ」の場に身を置いてみてほしいのです。そしてご自身の体験を言葉にすること、つまりあなた自身のワークショップ探訪記をぜひ綴ってみてほしいと思います。
第1回:からだを使って、新しいコミュニケーションの回路をひらく
〜 佐久間 新 さん(ジャワ舞踊家)
第2回:音であそぶ、音とあそぶ「音あそび実験室」〜コヒロコ(音楽ユニット)
第3回:みえるものと、みえないものと。〜視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ
第4回:“生きづらさ”をほぐす手だて〜ミロコマチコさんワークショップ@カプカプひかりが丘〜(画家・絵本作家)
井尻貴子(いじり・たかこ)
NPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダ理事、2014年〜2016年までNPO法人多様性と境界に関する対話と表現の研究所事務局長。大阪大学大学院で臨床哲学の修士課程を修了。哲学、アートにかかわるプロジェクトの企画・運営・編集・執筆などに多数携わっている。また、街中や学校にて哲学カフェやこどもの哲学(P4C)といった、一緒に問い、話し、考える場をひらいている。一貫した関心ごとは、多様な人がともにある場、そこに立ち現れる表現。