ゴールキーパーの身体論

 

西村:「身体」をめぐる私の経験を話すとすれば、子どもの頃からいろいろなスポーツをしており、特に中学から始めたハンドボールは「身体」についていろいろ巡らすきっかけにもなった貴重な体験ですね。もっとも、それは哲学に関心を持ち身体論に出会ってから「そういえば」と、後づけで考えるようになったことですけれど。

 

私、小学6年生ですでに身長が160センチ以上あって、中学生の頃は長身の選手って言われていたんです。今はそうでもないのですが(笑)。高校受験の頃には地元の強豪校から直接お誘いを受けましたが、結局は普通課の高校に進学してハンドボールを続けます。

 

でもそこで怪我をして、間違った治療を受けてうまく治らず、それをコーチに責められて……。私が治療をしたわけではないんですけどね。それで、スポーツ選手の身体の管理に興味をもち、医療に目を向けることになったわけです。

 

宮子:なるほど。そうだったんですね。

 

西村:高校に入ったばかりの頃は、フィールドで積極的にシュートを打つポジションだったんです。練習でシュートを打った後に、自分のボールをゴールの中に取りに行くというマナーがあったんですが、まだゴールの中にいる間に次の人がシュートを打ってくるので「うわっ来た」って逃げますよね。

 

それを見ていたコーチが「ユミ、ゴールに入ってみろ」って言ったんです。キーパーをやってみろと。ゴールの中央に立つのはいいのですが、当然怖いからついボールを避ける。そうすると「今の反対に行けばいいだろ」って言われて(苦笑)。

 

言っていることはわかりますが、もちろんそんなに簡単にはできないわけです。でも、実業団でコーチをしている元男子ハンドボール部の先輩が来て「どうもあなたは男子選手の取り方ができそうだ」と言って毎日教えてくれるわけですよ。ちょうど休暇中だからって。

 

私自身は、ハードな練習についていくのが精一杯だったのですが、シュートを打ってくる選手の動きやジャンプに合わせて、私自身も両手足を広げてジャンプすると、ボールが体に当たるようになった。でも、どうして取れるのか自分ではよくわからない。もう少しちゃんと相手やボールの動きを読んで自身の意思で取りたいと思い考えながら動くと、逆にフェイントをかけられてゴールに入れられてしまうんです。

 

どういうことかと言えば、ゴールキーパーってボールを「待っている」と取れないんです。うまく防御できるときには、シュートを打ってくる相手にどこにどのタイミングでボールを打たせるかを、自分の身体の配置とジャンプのリズムで促しているんです。シューターがそこに打ってくればキーパーの体に当たるんです。

 

もちろん、ただ打たせるのではなく、当たった瞬間に全身に力が入るようにタイミングを合わせていっている。これは後年、実はメルロ=ポンティの書物を読んでいる間にだんだんわかるようになったことですが。「あ、そういうことだったんだ。相手とリズムを合わせて〈同調〉したとき、相手の動きと私の動きが対になって、結果的に相手の打ったボールが私の手足に当たる。それで取れるんだ」と。

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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