[4]枠からはみ出す

 

池田 看護の世界では、なんでも好きなことをどんどんやればいい、という発想はしにくいの?

 

西村 難しいですね。例えば看護研究という枠組みでは「看護のために役に立ちますか」が常に問われるし、「何のためにそれをするのか」を常に要求されます。

 

─── 必ずアウトカムが必要になる……。

 

西村 そうそう、アウトカムっていう言葉。私は絶対に使わないでおこうと心に決めている。

 

池田 それは今の大学全体で常に言われていることでしょう。成果指標など数値化が必要なだけでなく、それが右肩上がりじゃないとだめ。そんなの無理だよ。

 

西村 でもそれを全く示さずにやって行けるかというと難しいですよね、池田センター長。先ほども、今回の取材を受けたことをアピールするために写真を撮られていたじゃないですか。それも成果を示すためでしょ?

 

池田 だってそれをやらないとお給料もらえないもん……。

 

中岡 という割り切ったところもあるわけだ。やはりなんだかんだ言っても枠組みはありますよね。それは必ずしも悪いことじゃないと思うんです。

 

池田 枠があるから、そこから逸脱することが面白い。

 

西村 看護職同士でもよく、自分たちが「枠にはまっている」とか言うんです。頭が堅いんじゃないかとか、違う考え方ができないとか、いつも看護、看護と言ってしまうとか。でもまずはそれでいいのかも知れません。その次に「はみ出してもいいんだよ」って自分たちで言えるようになれば。

 

中岡 看護は生命にかかわっているのだから、何でもありというわけにはいかないと思いますよ。

 

池田 でも、看護が悪いからといって人がバタバタ死んだりはしないんでしょ?

 

西村 看護がいいと長生きはします。結構いいことが多いんですよ。その「いいこと」を積極的につくっていこうとはしています。例えば植物状態の方々は意識があまりうまく機能していない状態がずっと続いていても、いわゆる病気ではないので、健常人と変わらず、熱を出したり、がんにもなるんです。だから、できるだけそうならないようにケアを続けていると、何十年もよい状態を維持できます。そうできるように、きちんとルールをつくってケアをしているんです。だけどあまりに「こうしなきゃいけない」という行動規範に縛られたり、マニュアルのような枠組みをつくりすぎて、自分たち自身を窮屈にしてしまうところが確かにあるのです。

 

池田 それは金魚の飼育と同じじゃない?

 

西村 金魚……  (・o・)

 

池田 さっきの当事者性の話から一番遠い発想ですよ。つまり、金魚をただ長生きさせればそれでいいの? 長生きするってどういうことなの? 金魚自身が気持ちよくないと長生きできないでしょ。ストレスもたまっちゃうし。

 

西村 ああ、そういうことね。

 

池田 水槽をきれいに保つとか、水温だとか、変なバクテリアが増えたりしたら金魚さんも嫌でしょう。臭いけど水の匂いを嗅いで確かめるとかしないとね。

 

西村 金魚さんってナース? それとも患者さん?

 

池田 患者が金魚。ひょっとしたらさ、金魚さんは「いやー、もう最高ですわ。冬の寒い時にヒーター入れてもらって!」なんて言ってるかもしれない。世話してるほうも「なんか、生き生きしているよね!」って、金魚の気持ちがわかるじゃん。だから看護も金魚の飼育と同じなんだよ。元気になった金魚さんを見たら、明日も元気で頑張ろうって気持ちになるよね。でもそういうことを言ったら逆鱗に触れるわけでしょう?「患者を水槽の金魚に例えるなんて、一体どういうことなんですかっ!」って。

 

西村 そういう表現がね……。一つ、突っ込みたいんですが、金魚が患者さんだったら、その水槽の中にナースも入れてほしいですね。

 

(後編に続く:4月22日に公開予定)

 

[1] 考える力とかかわる力

「人がわかったらどうなるんだろう? 確かにわかったら嬉しい。嬉しいけど、それが看護にとってどう重要なの?」── 池田

[2]衝突と行き違いから始まるコミュニケーション

「コンフリクト(=争い、衝突、葛藤、対立)はないほうがいいと思うでしょ。でもそれがむしろ生産的なものにつながり得る」── 中岡

[3]分野を超えるのはしんどい

「植物状態の患者さんを“能面みたいだ”と言う人がいたから、国立能楽堂の地下書庫で『風姿花伝』を読んでいた時期もありました」── 西村

[4]枠からはみ出す

「一つ、突っ込みたいんですが、金魚が患者さんだったら、その水槽の中にナースも入れてほしいですね」── 西村

座談会:考えることの自由 大阪大学コミュニケーションデザイン・センター [前 編]

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