この本について
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書名:研究手法別のチェックシートで学ぶ よくわかる看護研究論文のクリティーク
定価:本体 2,800円+税
発行:日本看護協会出版会 →[ご購入ページへ]
概要:研究論文に書かれていることを正しく読み解き、評価するための知識と方法を詳細に解説。研究手法ごとのクリティーク・ポイントをチェックシートにまとめ、例題論文で実際に活用した内容を掲載しています。また、独学だけでなくグループワークで論文クリティーク力を身につける実践方法も紹介。大学や看護学校、病棟での勉強会など、研究論文を「読む」ためのあらゆるシーンで、明日からすぐに活用できる実践書です。
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◯ 本書の「まえがき」より
看護学生、看護教育研究者、看護職などさまざまな立場から研究論文を読む機会が増えている。看護ケアのエビデンスを探す、看護研究で文献検討を行う、学生を指導するため研究手法を学習したいなど、論文を読む理由も読み方も人それぞれであろう。しかし、読んだ内容の解釈に自信がある人はどのくらいいるだろうか。論文が意図していることや問題点を理解して解釈をし、示された結果を自分の仕事に正しく活用するには、批判的に読むこと、つまり「クリティーク」が欠かせない。クリティークをするというのは、論文を「理解して読む」のとは異なり、「批判的に評価しながら読む」ことである。
編者らの所属する看護疫学研究室の文献抄読会は、2007年から開始して70回を超えた。これを始めたきっかけは、当時の若手教員(山川)や大学院生が論文の内容を深く読めているか否かに自信がなかったからである。皆のやる気に加え、研究室の教授(牧本)の強力なサポートを追い風に、グループ全員で一つの論文を読むというスタイルができ上がった。そして回を重ねるにつれ、単に論文を読むのとクリティークするのとでは全く異なることがわかってきた。
このように長年の抄読会で習得した論文クリティークの知識・技術を、チェックシートの形に集約し自己学習できるようにまとめたのが本書である。読者が論文の構成に沿って研究事例を読むことで理解を深められるよう工夫し、また研究手法によってもクリティークの視点が異なるため、手法別のチェックシートを用いたクリティークの事例を豊富に紹介している。
私たちの文献抄読会が持つ特徴の一つは、学生の他に現役の看護職者も参加することである。皆でクリティークのスキルを身につけながら、同時に参加メンバーの批判的思考、すなわちクリティカル・シンキングの力を鍛えてきた。つまり論文をクリティークすることは、クリティカル・シンキング能力を高めることでもある。臨床でも教育でも重要視されているこの能力は、本書のチェックシートを用いて論文をクリティークし、同僚や友人と結果を話し合うなかで鍛えることができる。
近年よく聞く言葉として、エビデンスに基づいた実践(evidence-based practice:EBP)があるが、エビデンスの判断にもクリティーク力が要求される。この本で論文を吟味する技術を習得することによって、読者のEBPの一助となれば幸いである。
本書は「インターナショナル ナーシング レビュー 日本版」に連載した内容を最新の視点からすべて更新し、新たに具体的な事例などをふんだんに追加した、包括的なクリティーク実践本となっている。長年、試行錯誤しながら獲得したノウハウをこのような形でまとめられたのは、毎回熱心に参加してくれた抄読会メンバーのおかげである。また、原稿作成の過程では大阪市立大学名誉教授の井上正康先生より助言と激励の言葉をかけていただき、編集のモチベーションを高めることができた。加えて、日本看護協会出版会の村上陽一朗氏が、当研究室の活動を理解し出版の機会を与えてくれたことにも心より感謝の意を表したい。
当研究室のスタッフや学生をはじめ、多くの方々の温かいサポートを受けながら進化してきた内容を一冊にした本書が、看護学に携わる学生や教育研究者、そして臨床家のクリティーク力を向上させるための、ささやかな羅針盤となることを願ってやまない。
2014年6月 山川みやえ 牧本清子