糖尿病看護における血糖自己測定のEBP

 

 

水野美華 *1、山川みやえ *2、牧本清子 *3

*1 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 博士後期課程

*2 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 准教授

*3 大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻 教授

 

 

糖尿病看護における血糖自己測定の現状

 糖尿病(DM)患者は日本だけでなく世界的にも増加の一途を辿っており、臨床現場においてもDMを合併している患者の多さを認識せざるを得ないのではないだろうか。DMは、長きにわたり血糖コントロールが悪ければ、無症状のまま進行し重大な合併症を引き起こすという疾患特性を持つ。その治療の基本は日々の食事や運動であるため、患者自身の自己管理が鍵となる。

 日々の自己管理の目安として血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose:SMBG)があり、DM患者の血糖値を知ることができる、患者と医療者の共通の血糖コントロール・ツールとなっている。しかしすべてのDM患者がSMBGを利用できるわけではなく、日本では医療制度上インスリン療法中の患者のみ保険適応となっている。よって、それ以外の非インスリン治療2型DM患者は、目安のないまま日々の自己管理を行っている現状にある。

 本来、SMBGはどのような効果があり、どのように活用されているのだろうか。これまでの研究結果から、1型DM患者およびインスリン治療2型DM患者における血糖自己測定の有用性は明らかとなっているが、非インスリン治療2型DM患者については同様のコンセンサスが得られていない。そこで、ここでは非インスリン治療2型DM患者SMBGに関してのエビデンスはどのようなものが確立されているかを紹介する。

 SMBGに関する研究は7,000件以上あり、その一つひとつを臨床現場でチェックしていくのは不可能である。そこでシステマティックレビュー(SR)を活用することが推奨される。SRのデータベースであるコクランライブラリーーでSMBGに関する用語で検索し、SMBGに焦点が当てられているものを探した。2013年10月の時点で「SMBG」「self-monitoring of blood glucose」のキーワード検索で各1件が検索された。また、MEDLINEでSRに絞り込み「SMBG (AND) systematic review」でキーワード検索すると14件、「self-monitoring of blood glucose (AND) systematic review」では30件が検索され、それらのうちSMBGに焦点を当てたものは12件であった。さらにこれらを非インスリン治療2型DM患者を対象にしたものに絞り込むと、コクランライブラリーで1件、MEDLINEで4件であった。表1[PDF]に、これらの5件の非インスリン治療2型DM患者のSMBG関するSRの一覧を示した。

 

非インスリン治療2型糖尿病患者におけるSMBGのエビデンス

 表1[PDF]に示す、SRから導き出されたエビデンスの5件のうち、2件においてSMBGの血糖コントロールの効果が見られ、残り3件はほとんど効果が見られなかった1,2)。国際糖尿病連合(International Diabetes Federation:IDF)のガイドラインである『Guideline on Self-monitoring of Blood Glucose in Non-insulin Treated Type 2 Diabetes』3)では、非インスリン治療2型DM患者のSMBGにおける一貫した結果が得られていない原因として、研究デザイン・対象集団・介入方法が異なることが挙げられている。

 今回検索された5件のSRを詳しく比較してみると、まず、SMBGの効果がみられなかったSRについて、コクランライブラリーのSRでは、ITT分析(Intention To Treat)※1など厳密な評価を用いている4)。ITTによる解析は、治療のコンプライアンスの高い人でのみ結果を比較すると治療効果があっても脱落者が多く、割り当て群で効果が見られない場合は一般の患者に対して効果がないことが予想される。一般的にコクランライブラリーのSRは、方法が厳密で結果の信頼性が高い。例えば、出版バイアスがないかを徹底的に調査することを求められる。出版バイアスは文献の検索が不十分であると小規模研究で有意差のある研究が採択されやすいため、小規模研究で有意差のでている研究を多く含むようになり、偏りのある結論を出す傾向がある。

 もう一つのSMBGの効果がでなかったSRは、選別された個々の研究の元データ(患者個人のデータ)を入手し解析しているため、効果を直接評価できている5)。ここで直接評価とメタ分析の違いを説明しておく。メタ分析は、報告されているそれぞれの研究をオッズ比・相対危険比を標本数、研究の精度などで重荷づけをして、分析対象の文献を統合したオッズ比・相対危険比および95%信頼区間を統計的に算出する。つまり間接的推計である。メタ分析については、本書の第III章(p.59)を参照いただきたい。

 一方、SMBGの効果が見られたと報告しているSRでも、Welschenらのグループ別の分析では、新たにDMと診断された患者のほうが1年以上DMを罹患している患者よりもSMBGの効果がみられ、追跡期間が6カ月よりも12カ月のほうでSMBGの効果が低かった。また、研究方法論の相違でSMBGの血糖コントロールへの影響を検討すると、ITTの有無、割り付けの盲検化の有無、アウトカム測定の盲検化の有無で効果を比較した結果、厳しい基準で行った研究のほうが成果が低かった5)。その他、効果がみられた研究では、一部インスリン治療者が含まれているSR 6)、ITTが検討されていないSR 7)など、検討する研究の選別基準や分析方法が不十分なものが見られた。

 これらのSRの結果から、SMBGの血糖管理への効果は臨床的に有意な差はないようであるが、どの研究も特定グループの患者には効果的であることを否定していなかった。今後どのような患者に対してSMBGが血糖コントロールに効果があるかを検証していく必要がある。しかしながら、HbA1cの値やSMBGの測定の頻度、DMの罹患期間をどのように統一し解釈するか検討課題は多い。

 

SMBGの血糖コントロール以外の効果について

 未だ非インスリン2型DM患者のSMBGの費用対効果に関する強固なエビデンスが存在しないことは、政策的な対応の一端である保険適応を難しくしている要因となっていると思われる8)。DM患者の自己管理に不可欠な要素としてよく研究されているwell-beingやQOLについての検討は1件あったが、Well-being Questionnaire(WBQ-12)やEuroQol 5 dimensions(EQ5D)などのスケールを用い評価された結果、SMBGの効果は認められなかった 9)。

 さらにSMBGに対する教育の有無に関する検討をしたSRが1件あり、「SMBG結果の解釈などに関する教育あり」の3件のRCTと「教育なし」の5件のRCTを比較した結果、血糖コントロールに差が認められなかった10)。これらの教育内容についてはSMBG結果の解釈という記載に留まっており、詳細は不明である。

 今野(2011)が、ミックスメソッドによるSMBGの効果についてのSRを紹介している。これは質的・量的データをそれぞれ分析し結果を統合するものである。量的SRではSMBGの血糖コントロールへの効果が認められなかったが、質的SRでは別の側面から検討しており、「SMBGはエンパワーメントの過程を促進する方法であること」や「SMBGはDMのセルフマネジマントのために奨励されるべきであるという共通認識がある」などの、量的レビューでは得られないエビデンスが認められた。以上から、全体の結論として「SMBGは適切な指導と管理の下に導入されるべきである」「SMBGそのものは目標ではなく、セルフマネジメントを実現するための学習プロセスであることを理解するべきである」などが導き出された11, 12)。しかし、SMBGの費用効果などの問題があったり、明確なQOLへの効果なども報告されてなかったり、SMBGを非インスリン使用DM患者に導入するだけの研究成果はない。

 

SMBGにおけるシステマティックレビューの活用方法は?

 SMBGに関する研究は大規模研究も含め7,000件以上行われており、臨床の場でこれらの検討結果を活用するためにはSRを探して読む必要がある。しかし今回のようにSRが複数あり、そしてこれらのSRの結果が異なる場合、解釈に困る。一般的に推奨されるのは、常に専門領域の最新のガイドラインを参考にすることである。ガイドラインはSRも含む複数の研究結果を専門家が総合的に判断しているため、信頼度の高いものと言えよう。しかしながらSRと同様に文献の検索が不十分で信頼度の低いガイドラインが存在するのも事実である。ガイドラインの質の判断は容易ではない。一般的に国際的に権威のある学会が作成するものであったり、文献の検索過程を詳細に提示しているガイドラインなどが信頼性が高い。ガイドラインの内容についての評価はその専門領域の知識とSRの知識の両方が必要である。

 ここでは、非インスリン型治療2型DM患者のSMBGに関するSRをいくつか紹介した。SMBGに関する最近の研究では、従来からのSMBG実施の有無や費用対効果を明らかにするものに加え、QOLや心理面を評価するもの、教育やフィードバックの有用性など、あらゆる側面からも検証されるようになってきており、日頃の糖尿病看護実践における方向性を示す指標として活用されることが望まれる。

 

※1: ITT分析(Intention To Treat:治療の意図)

 最初に振り分けられた集団で効果を比較する方法で、脱落者の結果も含む。この場合、対象者が実際にSMBGを最後まで実施したが、あるいは途中で何か問題があったり面倒でやめてしまったりしたかどうかにかかわらず、当初割り付けた群にしたがって分析すること。つまりSMBGの実用的な価値を評価するもの。

 

引用文献

1)Malanda, U.L., Welschen, L.M.C., Riphagen, I.I., Dekker, J.M., Nijpels, G., Bot, S.D.M. Self-monitoring of blood glucose in patients with type 2 diabetes mellitus who are not using insulin. Cochrane Database Systematic Review, CD005060, 2012. DOI: 10.1002/14651858.CD005060.pub3.

2)Farmer, A.J., Perera, R., Ward, A., Heneghan, C., Oke, J., Barnett, A.H., et al. Meta-analysis of individual patient data in randomised trials of self -monitoring of blood glucose in people with non-insulin treated type 2 diabetes. BMJ, 344, e486, 2012. DOI: 10.1136/bmj.e486

3) IDF(International Diabetes Federation). Guideline on Self-monitoring of Blood Glucose in Non-insulin Treated Type 2 Diabetes [a web page]. The Fedaration, 2009.(http://www.idf.org/guidelines/self-monitoring)[2013.11.30 確認]

4)前掲1)

5)前掲2)

6)Breland,  J.Y., McAndrew, L.M., Burns, E., Leventhal, E.A., Leventhal, H. Using the common sense model of self-regulation to review the effects of self-monitoring of blood glucose on glycemic control for non-insulin-treated adults with type 2 diabetes. Diabetes Educator, 39(4), 541-559, 2013.

7) McIntosh, B., Yu, C., Lal, A., Chelak, K., Cameron C., Singh, S.R., et al. Efficacy of self-monitoring of blood glucose in patients with type 2 diabetes mellitus managed without insulin: a systematic review and meta-analysis. Open Medicine, 4(2), e102-113, 2010.

8)前掲1)

9)Welschen, L.M., Bloemendal, E., Nijpels, G., Dekker, J.M., Heine, R.J., Stalman, W.A., et al. Self-monitoring of blood glucose in patients with type 2 diabetes who are not using insulin: a systematic review. Diabetes Care, 28(6), 1510-1517, 2005.

10)前掲7)

11)Australian Diabetes Educators Association. The effectiveness appropriateness and meaningfulness of self-monitoring blood glucose (SMBG) in type 2 diabetes: a mixed methods systematic review [a web document]. 2009, pp .1-99.(http://www.adea.com.au/partners/national-diabetes-services-scheme-ndss/pdf/)[2013.11.30 確認]

12)今野理恵. ミックスメソッドを用いたシステマティックレビュー研究. インターナショナル ナーシング レビュー日本版, 34(4). 48-53, 2011.

 

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