はじめに

 

EBMやEBNが日本に紹介されて久しく、エビデンスの重要性についてはすべての医療職にとって周知の事実となっている。本書はそのエビデンスの基とも言える、システマティックレビュー(SR)の概要、方法や解釈の仕方について紹介している。また、現在SRには量的研究と質的研究そして両者を統合したmixed SRの3種類があり、それぞれについても詳しく解説している。

 

本書は「インターナショナル ナーシング レビュー 日本版」152号の特集がベースになっている。新たに、臨床実践においてEBPを活用するためにSRが果たす役割について具体例を紹介する2つの文章(第Ⅲ章)を加え、さらに既存の文章をアップデートし、すべての内容を一新した。

 

筆者らがSRについて本格的に取り組み始めたのは、オーストラリアのアデレード大学とジョアンナ・ブリッグス研究所(JBI)の日本連携センター(JCEBP)について、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻が打診を受けたことがきっかけとなった。アジアではシンガポールや香港などの英語圏が多くのSRを行っており、ここ数年、台湾・韓国・中国などの看護系大学や医療機関も、SRに取り組んでいる。この現象には、アジア諸国の医療が国際競争力をつけてきていることや、どの国でも医療が政策の重点課題の一つになっていることが背景にあると思われる。

 

エビデンスとなる研究のほとんどが英語の専門誌に掲載されており、その点で非英語圏は不利な立場にある。しかし英語を用いないフィンランドでも、博士論文の研究に着手する前に研究テーマについてのSRを要求するようになった。そして米国、オーストラリア、シンガポール、オランダなど、SRを博士課程の学位論文として認める国が増えてきている。一方、日本ではSRが大学院レベルで一般的に行われていないのが現状である。SRの実施には図書館資源が豊富であることや、研究者の時間の投入が必要である。欧米ではSRに対し研究助成が申請でき、かなりの予算が配分されている。だが日本では、データを集めるoriginal researchでなければ研究助成の対象とならず、その点でも大きなハンディキャップを背負っている。

 

もう一つ憂慮すべき現象は、文献のレビューをしない大学院生の増加である。背景には、医学系研究科の影響を受けた看護系大学では本論文が卒業要件に入らないところが増えたことがある。これは国際的な看護研究の動向と乖離しており、重大な問題である。近年、英語圏の医学・看護系専門誌の論文には、次の2つの要点が記述されることが多くなった。それは「この研究テーマですでに明らかにされていることは何か」と「本研究が先行研究の知見に追加するものは何か」である。つまりそこには、先行研究のレビューの結果を簡潔にまとめることが要求され、レビューの重要性が示唆されているのである。

 

一方、文献レビューをすると先行研究に影響を受けるから読まない、という考え方も存在する。しかし学術論文の前書きでは、先行研究で明らかになったことや研究の限界について簡潔に説明し、新たな研究の必要性を述べる必要がある。先行研究の単なる繰り返しは研究として認められず、先行研究の長所・短所を把握して自身の研究と対比しなければ、研究結果の新規性や限界についての「考察」は深まらない。そのような国際的なルールに基づく英文雑誌に投稿するには、文献のレビューができるようになることが第一歩と言える。

 

本書がSRの重要性や活用方法を理解する一助になることを期待する。

 

 

2013年11月 牧本 清子

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