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病院主体の在宅看護ケアのパフォーマンスに影響する

内的・外的環境因子

Critique:

Noh, J.-W., et al. (2011) Internal and external environmental factors affecting the performance of hospital-based home nursing care. International Nursing Review 58(2), 263-269

評者:西方 志織1  山川 みやえ1  樋口 明里1  矢山 壮1  大村 佳代子1   樺山 舞1  牧本 清子2

1  大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻看護疫学研究室 文献抄読会メンバー

2  同研究室 教授(欄外コメント)


(本文中の●印は欄外コメント、◯印は訳文の該当箇所を示しています)

抄録

・抄録の内容が本文と異なっている。「結論」のところで「ナースの熱意」は本文では、組織文化的要因であるはずなのに、病院の管理要因となっていた。これは単純なミスと言わざるを得ない。論文を投稿する過程で原稿の修正を何度もするので、本文を修正し、抄録を修正できなかったと思われる。最終的にしっかりとチェックすることが必要である。特に抄録は文献検索データベースに掲載される、いわばその論文の「顔」である。読者はそれを基に文献を探すので、抄録は間違いのないように細心の注意を払うことが重要である。


序論

・ 論文の中で核となっているPerformance(以下、パフォーマンス)という言葉は、ケアを中心とする病院全体を対象としていたはずが、途中からコストパフォーマンスを焦点にしたように誤解を招く内容であった。

・パフォーマンスという言葉は、この論文のキーとなる概念である。随所で多用されながらもこの言葉が一体、何を指すのかがしっかり定義づけされていない。序論の始めの部分で、先行研究と概念の比較をし、類似点や相違点を明確にした上で、本研究での定義を設定し、その理由も記述すべきである。研究のメジャーテーマである概念は、このように冒頭で定義づけておかないと研究目的があいまいになり、収集するデータもまとまりのない内容になってしまう。

  後述するが、結果的に研究目的は不明確であった。このことが論文全体に悪影響を与えてしまっていた。概念の明確化がいかに重要かが、改めて実感できる。

・「本研究の目的は...」という記述が2カ所見られるが、それぞれの内容が微妙に異なっている◯2,3。一方では「病院主体のHNCの結果に影響を与える重要な因子を特定し、その過程でのコスト削減法を明らかにすること」としているが、他方では「病院ごとの病院主体HNCサービスとそのパフォーマンスを評価して、病院間のパフォーマンスのばらつきを引き起こす因子を明らかにすること」とある。これでは、この論文で打ち出す新たな知見が何かよくわからない。つまり、目的を何度も述べているが一貫していないため、結果として研究目的が不明確になっているのである。

  これは、前述したように「パフォーマンス」の概念があいまいなために、目的も不明確になってしまっているのだ。ここでもやはり、研究における使用概念の明確化の重要性を確かめることができる。


方法

・internalおよびexternal factorの内容は列記しているが、その定義があいまいである◯4。さらに、それらの因子がパフォーマンスにどのような影響を与え得るのかなどについて設定の根拠がない。

・韓国のHNCの173の施設を対象にしているが、参加した施設は89であった。ある時点においてHNCサービスを利用している施設を抽出したとあるが、参加しなかった施設の特徴が、参加した施設とどう違うのか記述が必要である●1 ◯5

・横断研究デザインが用いられている◯6が、それでパフォーマンスが測定できるとは思えない。ここでもパフォーマンスの定義がないことが問題となるが、通常パフォーマンスと言えば最初と最後を比較するなど、ある程度の追跡期間が必要と思われる。追跡調査を前提としたパイロットスタディだとしても、研究目的があいまいである。

・パフォーマンスを表す従属変数の設定は、外来患者の訪問日数のみである(表1◯7)。研究目的自体が不明確であるために、なぜ、パフォーマンスを外来の訪問日数のみで表すことができるのか理解できない。研究目的◯2にしても、コストパフォーマンスを評価するにしろ、訪問日数だけでは不十分である。また、表2でも明らかなように、従属変数のVisiting casesを対数変換していた●2 ◯8

・データの収集項目【独立変数】が多いが、その理由がわからない(表1◯4)。データの取り方が本当に適切なのか(ナースの熱意などをどのように取ったのかわからない)、集めた変数の収集すべき根拠について、序論で先行研究の検討として書くべきである●3。これに関連することだが、表1に測定した独立変数のリストが掲載されているが、測定したいもの(この場合パフォーマンス)に対する関連因子などの概念枠組みが明示されていないため、これらの独立変数が必要なのか不明である●4 ◯4。多重共線性は相関行列をチェックしてから行うべきである●5 ◯9

・妥当性と信頼性の項に「ツールは本研究のために開発した」とあるが、ツールが何を指すのかが不明である(おそらく表2ではないかと思われる)◯10

・クロンバックαのみの計算で信頼性の記述が終了している。クロンバックαは内部一貫性を見るものなので、ここで算出するのは間違いである。データの収集方法の信頼性を見るには、測定者内や間信頼性などを算出する必要がある●6 ◯10

   

結果

・結果で各仮説が紹介されているが、通常は序論でしっかり説明する必要がある。その検証をするということを研究目的で記述する必要がある。さらにさかのぼれば、なぜこのような仮説が導き出されるのかは、序論でしっかり述べる必要がある。ここでもまた、研究目的が明確でないこと、つまりこの研究でのパフォーマンスの概念が定義づけられていないことが問題となっている。

表2の対象施設の人口学的データは、すべて対数変換されており、元の実数の記述統計がない。表2には対数変換した数値が書いてあるので解釈しにくい。

表2には、一つひとつの変数に関する説明がないので、それぞれの変数が、何を意図しているかが理解できない◯11。例えば市場要因が何を指すのか、その内容もわからない。主な生産力に関する要因に関しても、項目の存在の有無のみで測定している。特に不可解なのが、ビジネス計画と資産運用の有無がパフォーマンスの独立変数となっているところだ。そもそもそのような変数を「ある」「ない」だけで区別するのが実際上、適切だろうか(ビジネス計画と資産運用が「ない」医療施設が存在するのだろうか?!)。

表2の欄外◯12および本文中のハーフィンダール-ハーシュマン指標(HHI)、集中率(CR)、地域内総製品(GRDP)が何を示しているのか、その計算式についての情報が全くない。

表3では、1つの表に多種類の統計分析結果がすべて一緒に掲載されているのでわかりにくい。

表4には、決定係数が記載されていないので、実際は低い可能性がある(書かなくてよいのか?)●7


考察

・考察と研究目的が合ってない。考察では、まずその研究におけるリサーチクエスチョン(研究目的)に対する、メインの結果の解釈を記述しなければならない。しかし実際には、あまり関係のないことが書かれている。最初に病院の医療費と入院期間、ベッド占有率などの話があり、コストについての一般的な話が続いている◯13

・結果と先行研究との比較では、単に「一致した」「一致していない」という比較をしているだけで、そのことにどのような意味があるのか、本研究の結果の意義について、先行研究との比較による深い洞察がない●8

・韓国のデータであるが、アメリカとの比較をしている根拠が不明である◯14

・単なる相関の結果を因果関係の有無としているのはおかしい◯15。横断研究では関連があるとしか結論づけられない●9


結論

・文章が考察の続きのように長い。結論は簡潔にする必要がある●10


評者メンバー全体の感想

・研究目的がわからない。単にコストとの関係など、考察で述べていることを言いたかっただけではないか。

・ナースの熱意でパフォーマンスが説明できるのが衝撃だった。

・「パフォーマンス」があいまいな概念のままでわからなかった。

・結果の見せ方がよくない。反面教師的なものと思った。

・この論文の結果の意味を考察していないのが大問題である。

・この論文が掲載された理由を知りたい●11

・表が何を示しているのかがわからなかった。

・知らない単語があまりないのに、内容がよくわからなかった。

・パラグラフが長く、1つのパラグラフの中にトピックが2つあるものもあった。トピックセンテンスに沿った書き方ではない。


●参考文献

Docherty, M., Smith, R. (1999) The case for structuring the discussion of the discussion of scientific papers. BMJ, 318, 1224-1225.

Mitchell, S.L., Teno, J.M., Kiely, D.K., Shaffer, M.L., Jones R.N., Prigerson H.G., Volicer, L., Govens, J.L., Hamel, M.B. (2009) The clinical course of advanced dementia. N Eng J Med, 361, 1529-1538.

STROBE statement, http://www.strobe-statement.org/

Zar, J.H. (1999) Biostatistical Analysis, 4th Edition. Prentice Hall, New Jersey, USA, 425.

von Elm, E., Altman, D.G., Egger, M., Pocock, S.J., Gøtzsche, P.C., Vandenbroucke, J.P. (2007) STROBE Initiative. The Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology (STROBE) statement: guidelines for reporting observational studies. Epidemiology, 18(6), 800-804.

●1:参加の偏りについての検討がなく、内的妥当性が不明である。病院の規模などにより参加率が異なったりすると内的妥当性は低いかもしれない。内的妥当性については、本誌2011年秋号(Vol34,No.5)の連載「研究論文のクリティーク 第4回「研究方法のクリティーク・その2〈データの収集方法と分析方法でのクリティークの視点〉」を参照されたい。


●2:患者数が多くなれば訪問日数は当然増える。また、この論文ではVisiting cases(年間の訪問日数)は対数変換して設定していた。通常のデータは正規分布していないことが多いので、予測する時に正規分布にするため対数変換をする。しかしこれは、そもそもクリティークで述べられているように、パフォーマンスを測定する変数をVisiting casesのみでよいのか、ということが問題である。訪問看護のパフォーマンスをどの程度、反映しているかが検討されていない。


●3:通常、収集する項目の理由は序論で紹介すべきである。この場合、パフォーマンスの定義、概念枠組みや下位概念について序論で説明し、文献のレビューでどのような独立変数がこれらを測定するのにふさわしいかを説明しておく必要がある。従来、看護の学術論文は詳細な文献レビューを書くことが多かったが、システマティックレビューの普及やレビュー専門の学術雑誌の増加により、現在では詳細な文献レビューはほぼ消失したと言える。序論では先行研究の紹介、先行研究の限界、本研究の必要性を簡潔に述べる。余談だが、学術雑誌の電子化により、雑誌のインパクト係数(Impact Factor:IF)が容易に算出されるようになった。これは論文の過去3年間の平均引用件数に基づくもので、多くの論文を掲載するほどIFが高くなる確率が増える。このため、出版社は著者に論文を短く簡潔に書くよう要求するようになってきた。


●4:例えば、外来での疾患の管理の良否を判断する場合、喘息が指標の疾患として用いられる。喘息で入院する患者が多い場合、外来での疾患管理が不良であると解釈される。ここでは、訪問看護のパフォーマンスの指標として何が適切で、パフォーマンスを予測する因子として何が適切であるかが議論されていない。


●5:例えば、表2の医師の数と看護師の数を見る。2つとも病院の規模を示す変数であり相関が高いと思われる。つまり相関係数が高い(通常相関が0.8〜0.9以上)独立変数が2つ以上ある時、多重共線性をチェックする必要があるのだ。3以上の変数に多重共線性がある場合、相関係数が0.6程度でも多重共線性の問題が存在することがある。多重共線性があると、偏相関係数の標準誤差が大きいかもしれない。つまり回帰係数の推定は不正確であり、統計的に仮説が否定できないかもしれない(仮説:回帰係数=0)。また、重回帰の計算にもエラーを来すことがあるかもしれない(Zar JH, 1999)。多変量解析はパソコンで簡単に実施できるが、適切な方法で実施するにはかなりの勉強と経験が必要である。


●6:クロンバックαで算出される内部一貫性は、通常質問紙調査などで下位概念や全体の概念の項目に対し、回答者が各質問項目を同じ方向に答えているかどうかを見るものである。この表2からすると、概念枠組みが異なるものを一緒にして、内部一貫性を計算する理由がわからない。またクロンバックαは、変数の数が多くなれば値が大きくなるため、尺度全体のクロンバックα自体は内部一貫性の解釈としてあまり適切な指標ではない。


●7:ロジスティック重回帰では、決定係数の代理指標であるNagelkerke R Squareは書かないことも多い(従属変数を説明できる割合を意味しているとは言えないから)。しかし線回帰は必要であるので書かないといけない。書いていないということは低い可能性がある。査読者のチェックが甘いと言える。


●8:考察の最初のパラグラフでは、本研究で達成したことを要約して紹介するべきだが、この論文では直接関係のない文章で始まっている。さらに研究結果が「これは某論文の結果と一致している」「〜一致していない」といった記述に留まっている箇所が多く、研究結果の解釈(結果が示唆すること)について述べていないところが目立つ。


●9:横断研究であるが、因果関係があるように解釈しているのが問題である。看護師の情熱がパフォーマンスに大きな影響を与え、訪問看護師を仕事に没頭できるようサポートすべきであると結論づけている(抄録の結論)。しかし、仮説として、規模の大きい病院ほど退院患者数も多く、在宅訪問回数が多い。そして、規模の大きい病院はモチベーションの高い訪問看護師を雇用しやすい環境にある。このように、看護師の情熱はパフォーマンス(訪問回数)を増やすのではなく、訪問回数と関連した要因と考えたほうがよさそうである。


●10:結論は、1段落で簡潔に、研究で明らかになっていることを書く。この論文では4段落と長く、考察が入っている。


●11:査読者が「ナースの熱意」といった言葉に引き込まれたのかもしれない(査読者によるところが大きい)。タイトルが魅力的だったからではないか。

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Advice:

 研究の実践への示唆や研究成果の意義について検討することが重要である。"Publish or perish"(「出版せよ、さもなくば研究者としてのキャリアは消滅する」といった意味)という言葉があるように、近年特に学術論文に投稿するプレッシャーが高くなっている。

 このような環境の中、当研究室の文献抄読会では、看護実践に貢献する文献を探してクリティークするようにしている。筆者の背景が疫学なので、研究の精度管理、研究方法の適切性、研究結果の外的妥当性(研究結果がどの程度一般化できるか)、研究の限界などに着目して読んでいる。現在まで約40回の抄読会を院生と開いてきたが、未だに素晴らしい研究だと思える論文に出合っていないのが残念だ。

 さて、今回ここで取り上げた論文は、英語論文の書き方としては基本を踏襲していない。つまり英語論文の書き方の基本をあまり訓練されていない研究者が書いた論文のようである。近年の医学系英語論文の書き方では、研究の必要性を序論の最初のパラグラフで示唆するように書くことが推奨されている。

 段落は1つのメッセージを伝えるもので、そのはじめにトピックセンテンスと呼ばれるメッセージを書き、以後それを説明していくのが英語論文の書き方である。この論文は段落が長く、最後まで読まないと何を言いたいのかわからない箇所が多い。また、段落の中で突然他の話題に移るところも見られる(例:考察の最初の段落後半の“本研究の結果から”より、話題が急に変わっている◯16)。

 また、研究の弱みについて一言も触れていない。逆に強みもあまり明確に打ち出していない。最近の論文では、論文の強みとともに弱みも明確に書くことが要求されている。

 その他、訪問看護のパフォーマンスであれば、ケアの内容・回数・時間などにより患者のアウトカムが異なるなどの研究を期待する。訪問看護ケアの内容や患者指導などが、褥瘡の予防・再入院率・合併症の発生率などのアウトカムと関係しているかを探索的に調査したほうがインパクトの高い研究であると思う。

 考察は論文の中でも最も難しいセクションであり、要点として以下の要素を含む(Docherty et al., 1999)。

・主要な発見

・本研究の強みと弱み

・他の研究と比 べての強みと弱み:特に結果で他の研究と異なる場合に考察

・研究の意味・意義:臨床家や政策者への結果の理論的説明や示唆

・この研究で答えられなかった質問と、これから必要な研究について

 では参考に、よい考察の書き方の一例を紹介しよう。Mitchellら(2009)による論文で、認知症末期患者の臨床経過について行った前向き調査である。発表されたNew England Jour­nal of Medicineの2010年におけるインパクト係数は53.48と、臨床系医学誌のトップに君臨する。この考察は、トピックセンテンスを用い、段落の中で説明することを明確に述べている。


  1. 〈考察〉

  2.  ナーシングホーム入居者の本前向き研究は以下のことを明らかにした:重度認知症患者の死亡率が高いこと、感染や摂食障害が認知症の終末期に発生しやすいこと、死期が近づくにつれ苦悩(distress)徴候がよく発生し、増加する。死の3カ月前、調査した入居者の多くは効果の疑わしい重荷になる介入を受けた。しかしながら、ヘルスケア代理人が、予後がよくないことや予期される臨床合併症について気づいている場合は、入居者は終末期にこれらの介入を受けない傾向にあった。

  3.  本研究は、重度認知症患者の高い死亡率について明らかにした先行研究と一致し、それらを発展させたものである。6カ月の死亡率が25%で、生存期間の中央値は1.3年であった。重症認知症は転移乳がんや、うっ血性心不全(ステージ4期)のような一般的に認知されている終末期の余命と関連していた。認知症は終末期疾患であることは、我々の研究により支持される。それは、死亡原因の多くは破壊的な急性の出来事(心筋梗塞など)、他の終末期疾患(がんなど)、もしくは慢性状態の代償不全(うっ血性心不全など)によるものではない。

  4.  感染や摂食障害は重度認知症の特徴であると一般的に思われているが、これらの合併症に関する前向きに集められたデータはほとんどない。(本研究の強みについて書いた段落) [以下略]


 このように段落の最初にメッセージを書き、その後に説明を追加する書き方は、日本語の起承転結と正反対である。しかし、この相違を理解して論文を書かないと、日本語の論文を英語にしてもらっても査読者が理解しにくい。(牧本)

文献抄読会メンバーより:

 私たちが所属する看護疫学研究室では、疫学的視点を基に看護実践に関する研究を行っています。臨床現場での調査研究は実験研究で得られるようなデータとは異なり、患者の状態やその病棟や地域での不確定な要素がたくさんあり、期待した通りのデータが取れない場合も多いです。

 さらに、私たちは欧米で実践されているような大規模研究ではなく、臨床での詳細なデータを基に、可能な限り実際の看護実践を反映できるようなケア介入方法の開発を目指しています。そのため少ないサンプルサイズでも「上手く論文が書けること」が不可欠です。2007年から実施している文献抄読会は、実践的な研究を実施し、洗練された研究論文を書くことを最終目標にしています。

 当研究室にはユニークな研究テーマを持っている学生が多く、ゼミでは多様な研究が紹介されていました。そのため、当初はそれぞれの研究方法を勉強する目的で文献抄読会を始めました。具体的な内容は本誌で連載中の「研究論文のクリティーク」で紹介させていただいていますが、研究目的、枠組みの明確さ、デザインの適切性、データ収集の正確さなどの研究論文を構成する各要素についてクリティークを実践しています。

 さらに、文献抄読会では文章の書き方についてもクリティークを行うのが特徴です。苦労して収集したデータを緻密に分析し、導き出した結果を意味のあるものにするために、読者を惹きつける魅力的でわかりやすい文章を書く必要があるのです。

 メンバーは大学院生、助教、教授が中心となっていますが、研究室のOGや他領域の研究室に所属する大学院生の他、現場で働くナースも参加しています。そのため、疫学的視点を中心としつつ、臨床現場の実際的な状況など、実にさまざまな視点を盛り込んだ深いクリティークが展開されています。文献抄読会の運営は、文献を紹介する担当者を決め、図のようなプロセスで実施しています。

 文献抄読会をより充実したものにするためには、事前に対象文献を読み、まず自分でクリティークしてみることが重要です。その後、グループでディスカッションすることにより、より深いクリティークが可能になります。そこで展開した内容は担当者がまとめて参加者に配信するので、全員が内容を振り返ることができ、クリティークの力が少しずつついてくる、というわけです。

 多くの学術雑誌では、よい研究を推進するためにさまざまな基準が紹介されています。私たちは個人もしくはグループでこれらを参考に文献を読んでいますが、特に疫学研究における観察方法の基準である、STROBE(STrengthening the Reporting of OBservational studies in Epidemiology)statementを参考にしています。

 STROBE statementは適宜更新されており、コホート研究やさまざまな観察研究の論文の書き方の基準を提示しています。ホームページがあるので、一度チェックしてみてください。

 その他、BMJ(British Medical Journal)などのジャーナルでも多々示されています。ただしこれらの基準は、参考にはしますが強くこだわるというわけではありません。公表されているさまざまな基準を理解した上で、看護領域のエビデンスにつながる研究かどうかを総合的に考察し、クリティーク能力を高めるように研鑽を積んでいます。