はじめに「 認知症になっても、これまでと同じように暮らしたい 」

編著者:山川 みやえ* ・ 繁信 和恵**

*大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授/公益財団法人浅香山病院臨床研修特任部長

**公益財団法人浅香山病院認知症疾患医療センター長

 

 

この表題の言葉は、認知症になった人や家族の願いであり、地域包括ケアシステムを推進していくうえで根幹となる考えです。高齢化が進むにつれ、認知症の症状を引き起こす疾患に罹る確率は高くなります。若年性認知症の問題もあり、その特有の症状から日常生活に多大な影響を及ぼすため、認知症は一人のひとりの人生そして社会全体が直面する大きな課題です。

 

ここで、読者の皆さんと一緒に確認しておきたいことがあります。認知症は「脳の病気」です。スピードには個人差があるものの、病気の多くは進行し、あまりにもつらい状況になってしまう可能性が高く、そのうえ発症機序も治療方法もまだよく解っていません。しかし、本人と周りの人の理解や努力があれば、認知症をもつ人も生活の中でいろいろなことができるのです。そして認知症という病気はその人の人生の一部であり、その人の特徴の一つであると考えれば、病気とともに生きる人は認知症をもつ本人だけではありません。

 

支える仕組みはさまざまにあります。介護保険制度をはじめとした公的サポート、家族会やNPO法人、ボランティア団体といったインフォーマルなサポートなど。それぞれのケースに合わせてこれらをうまく組み合わせていくことが、地域包括ケアシステムがめざすものです。

 

認知症は病気ですから、当然、医療の介入が欠かせません。前述のとおり認知症疾患は今のところ根本的治療方法がなく、症状も変動しながら進行していきます。そのため長い経過の過程で、ときには興奮や徘徊などの行動心理学的な症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:BPSD)への対応が難しくなることもあります。そのような場合は、生活支援を進めながら医療との連携を強めて生活を構築していく必要があります。

 

認知症をもつ人を支援する誰もが、BPSDの出現をできるだけ防ごうと努力しています。支援者や介護者に疾患の経過や対応方法についての理解が進めば、さらにその出現頻度を減らすことができるでしょう。しかし、それでも介護保険サービスの利用や外来治療では対応しきれない困難なBPSDがあります。

 

認知症にかかわる方の中には、精神科での入院治療に対して「抗精神病薬を多用し、身体拘束をしてすぐに寝たきりの状態にしてしまう」などと悪いことのようにとらえている人も多くいます。そのため認知症にせん妄を併発しているケースなどのように適切に入院治療を行う必要がある場合でも、家族や支援者が入院治療を躊躇することがあります。こうして、認知症を精神科病棟で入院治療をするという選択肢を、地域包括ケアシステムから除外して考える人もいるかもしれません。

 

実際に精神科病棟で行われている治療では、非常に激しいBPSDの方へのケア技術を高め、抗精神病薬の使用や身体拘束をできる限り減らす努力を行っています。そして個々のケア技術は、次にその患者がケアを受ける場でも提供できるようにつなげる工夫をしています。このように、認知症をもつ人がその時々の状況に沿ってフレキシブルに地域の資源を使えるようにし、その時々での生活基盤を固めることが、地域包括ケアの基盤です。

 

とりわけ、ケアマネジャーの方は、ご自身の地域で認知症のBPSDの入院治療を行っている精神科病院の精神保健福祉士などと交流を持つことをお勧めします。入院中にどのような治療やケアが行われているか理解しておくことで、入院治療が必要な時に適切な助言や介入ができ、よりよいケアの選択肢を拡げることにつながるでしょう。

 

本書は、認知症の人が日常生活を継続することに重点を置いた公的サポートをよりよくするために、日々責任をもって自身の役割と向き合う専門職、家族、そして認知症をもつ人とともにつくりました。認知症疾患の長い経過の中で、言葉で意思を伝えられなくなったときでも、本人を中心としたサポートを達成できるように、発症から最期までのさまざまな場面で必要となるサポートのイメージを読者の皆さんと共有できるように工夫しました。この本が認知症とともに生きるすべての方々の一助となれば幸いです。

 

 

 

>> 書籍認知症─本人と家族の生活基盤を固める多職種連携「はじめに」より

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