「現象学者のメルロ=ポンティは〈哲学とは己れ自身の端緒のつねに更新されてゆく経験である〉と言った。本書で試みた“対話”は、まさにこの更新を引き起こし、そこで生み出されたのは経験の新たな意味と自己の〈再発見〉であった。私たちは、現象学を実践したのだ」
── 西村ユミ(「あとがき」)
にしむら・ゆみ/首都大学東京健康福祉学部教授。日本赤十字看護大学卒業。神経内科病棟での臨床経験を経て、女子栄養大学大学院栄養学研究科(保健学専攻)修士課程、日本赤十字看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了。大阪大学コミュニケーションデザイン・センター臨床コミュニケーション部門助教授および准教授を務める。現象学・身体論を手がかりとしながら看護ケアの意味を探究している。臨床実践の現象学会主宰。著書に『語りかける身体』(ゆみる出版)、『看護師たちの現象学─協働実践の現場から』(青土社)、共著に『遺伝学の知識と病の語り─遺伝性疾患を越えて生きる』(ナカニシヤ出版)などがある。
「たまたま自分は強烈な個性の親のもとに生まれて、その与えられた条件の中で一所懸命にやってきたんだっていう気持ち。これがたぶんあるんですよね。だからわかってしまうんですよ。常に選びようがない中で選び続けていく人たちと関わるのが看護だということを」
── 宮子あずさ
(第1章「私だけの“問い”の見つけ方」)
みやこ・あずさ/看護師・作家。明治大学文学部中退後、東京厚生年金看護専門学校を卒業し、東京厚生年金病院(現JCHO東京新宿メディカルセンター)で二十二年間看護師として勤務(内科・精神科・緩和ケアなど)。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。著書に『看護師という生き方』(ちくまプリマー新書)、『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』(海竜社)、『両親の送り方─死にゆく親とどうつきあうか』(さくら舎)など多数。母は評論家・作家の吉武輝子氏、父・宮子勝治氏はテレビ局報道部勤務を経て、映画『東京オリンピック』(一九六五年)の制作に関わる。
「私たち人間は言葉なしで生きてゆくのが難しい存在ですが、同時に言葉に縛られて、人間を含めた世界の豊かで深い全体を損なう存在でもあります。西村さん、細馬さんのおかげで〈詩〉と呼ばれる特別な言葉の働きを、実例とともに読者の方々にも感じとっていただければ幸甚です」
── 谷川俊太郎
(第3章「対話のあとに」)
たにかわ・しゅんたろう/詩人。一九五二年に第一詩集『二十億光年の孤独』を刊行。多数の詩集や散文、絵本や童話、翻訳があるほか、「鉄腕アトム」主題歌の作詞など多彩な創作活動を行う。近年は、詩を釣るiPhoneアプリ『谷川』(ナナロク社ほか)や、郵便で詩を送る『ポエメール』(ナナロク社)など、詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦。「月火水木金土日の歌」で第四回日本レコード大賞作詞賞、『マザー・グースのうた』(草思社)で日本翻訳文化賞、『日々の地図』(岩波書店)で第三十四回読売文学賞、『世間知ラズ』(思潮社)で第一回萩原朔太郎賞、『トロムソコラージュ』(新潮社)で第一回鮎川信夫賞など、受賞も多数。