用語1:野生

 

レヴィ=ストロースは『野生の思考』の中で、ヨーロッパ近代の科学的思考と異なる未開社会の人々の思考を野生の思考と言っています。それは洗練されたヨーロッパの合理的な科学的思考に対して、劣った思考と見なされるような野蛮な思考でも非合理的な思考でもなく、科学的思考と同様に論理的であり、ひとつの特異な思考であるといえます。

 

また、科学が仮説や理論に依拠しているのに対して、野生の思考は具体性に注目する思考であるといえます。従って、レヴィ=ストロースにおける野生とは、具体性への注目ということもできるでしょう。

 

本文では、こうしたレヴィ=ストロースの考えを展開して、一つの真理を適用するのではなく、あらゆる個別具体的事象を特異なものと見なし、多様性を肯定する姿勢──生の在り方──を野性、あるいは「野生の看護」と呼んでいます。

 

なお、本文でも触れましたが、メルロ=ポンティも野生という言葉を使用しています。メルロ=ポンティは前客観性や前科学性──つまり、客観性や一般性を前提せずに特異なもの同士がコミュニケーションすること──を野生と表現しています。