用語3:十全な

 

普通は「少しもかけたところがないこと」を意味します。また、「用意が完全な様子」という意味もあり、ほぼ「万全」と同義で用いられています。

 

しかし、この十全という言葉は、真理を探究した伝統的な「哲学」にとってきわめて重要な概念であり、フランス語のadéquation、ドイツ語のAdäquationの訳語ですが、「完全な一致」を意味しています。

 

この言葉が何故、伝統的な哲学において重要であるかというと、判断(あるいは観念)と事態(あるいは事実)とが一致した時、その判断は真であるとかつての哲学者たちは考えたからです。もう少し分かりやすく言いますと、例えば、船に乗っていると、大海原の彼方に島が見えて、あなたは「島だ」と言ったとします。しかし、船が徐々にその島に近付くにつれて、それが島ではなく雲だと分かったならば、あなたの判断は誤っていたことになります。

 

対して、それが本当に島であったならば、あなたの判断は真です。つまり、判断と事実が一致したということであり、その判断は十全であるといえるわけです。