注1:哲学とはなんでしょうか

 

廣松渉は『新哲学入門』(岩波新書)の中で、「私は哲学概論や哲学史の授業を担当していた当時、哲学とは何ぞやという定義から始める伝統的な哲学講義を物笑いにして済ませるのが常でした」(p.1)と書いています。廣松からすれば、「哲学とは何か」という問いから始める本「哲学入門」も「物笑い」の対象に数え上げられることでしょう。しかし、続けて廣松が書いているように、「哲学とは何であるか、十全な[用語3]定義や説明をあらかじめ与えておくことなど不可能です」(ibid.)という意味であるならば、本「哲学入門」も同様の立場――あるいは、パースペクティブ――にあると言えます。後で触れるように、「哲学とは何でしょうか」という問いかけが可能なのは、ある思考する思考の同時に問いの対象としての「哲学」をあらかじめ前提としない「哲学とは何か」という問題提起であり、哲学的思考の開始とともに提起される問題だからです。