介護職の置かれている状況

 

吉田:介護職の世界は看護職よりもさらに大変ですよね。給料だってずっと安いし、身体的にも厳しい労働だし。あと、介護事業の中には、儲けになるからという理由で始めたケースも出てきていることが気になるんです。お金にならないと増えていかないのだから必要なことでもあると思います。でも、かつてはもっと、支え合いだとか助け合いといった文化があったと思うのですが、高齢者福祉の場は今、何か殺伐とした雰囲気を感じてしまうことも少なくない気がします。介護福祉士が単なる労働力として見られ、心ある存在としてちゃんと待遇されていないのではないかと。さらにそういった施設を利用される人々に対する社会の扱い方も正直なところ気になるのです。

 

矢原:介護職の離職率が一般産業に比べて常に高いことが指摘されていますが、それは看護職も同じで、専門職なのでよりよい職場を求めるのはある意味悪いことばかりではないと思います。ただ介護職の場合、職場によって離職率の格差が非常に激しいことは問題ですね。介護労働安定センターのデータを見ると、介護職の人たちがその仕事に就いた第一の理由は一貫して「働きがいのある仕事だと思ったから」なんですね。ただ一方で介護施設で働いている介護職と看護職を比べると、自分の仕事で専門性が活かせていると感じている人の割合は看護職が半分くらいなのに対し、介護職はさらにその半分くらいしかいない。「自分の仕事が利用者の生活改善につながるか」という質問でも、看護職より介護職のほうが「はい」の数が少ないわけです。これは病院でなく介護施設でさえそうなんですね。だから、もっとやりがいを感じられるようにすると同時に、周りが彼らの働きを承認してくれるような環境整備も重要です。

 

吉田:矢原さんが、福祉の場で、「臨床社会学」を実践されているからこそ、気づくことになっている大事な問題意識ですよね。それに関連して何かなさっていることはあるのですか?

 

矢原:昨年度、リフレクティング・プロセスの研究実践の一環として、各地の特別養護老人ホームで働く介護福祉士や看護師の方々へのインタビューをおこないました。

 

吉田:それは、矢原さんがご著書に書いておられるように、介護福祉士や看護師の方々に、互いにそれぞれのことを話してもらって、その話していることを距離をおいて、観察するということをお互いに代わる代わるに実施するというリフレクティング・プロセスを用いて、研修を実践しようとした取り組みということですか?

 

矢原:そうです。まずは同じ施設で働く介護職や看護職が互いの仕事を認め合いながら協働していくことが大切だろうと考えて取り組んだ研究実践のひとつです。リフレクティング・プロセスという少し変わった仕組みで互いの会話に耳を傾けるのですが、まず、どんな話題で話し合ってもらうかを考えることが大事で、そのためにそれぞれの職種の方にインタビューをしてみたのです。話を聞いてみると、実際には互いのことを結構わかっていて認め合っているのに、それを言葉にする方法や機会が少ないことがわかりました。

 

あと、同じ特養に勤める看護師さんたちに対する介護職の皆さん側の印象というのは、もっと自分たちの現場を手伝ってくれたらいいのに......といったものが多いのですが、看護師さんに話を聞いてみると実は彼女たちもすごくストレスを抱えていることがわかるんです。病院だとドクターがいたけど特養ではいろいろなことを自分たちで判断しなければならないし、たくさんこなさなければならないことがあると。でも、リフレクティング・プロセスを用いた研修を進めていくうちに、相手が見ている自分の姿や、その上で見えてくる相手の姿に対する理解が深まり、「こんなことまで相手は考えてくれていたのか」と実感して、最後はかなりそれぞれの職種に対して感謝の気持ちを持ち、互いに協力の提案をし始めるようにまでなることが多く見られました。

 

吉田:なるほど。そういう認め合う仕組みづくりのためには、少し時間も場所も使うから大変だけど、リフレクティング・プロセスを用いた研修を、現場に負荷をかけてでも実施してみることには価値がありそうですね。

 

矢原:そうですね。職種同士が互いに承認し合わず不信感を持ったままで働き続けることのしんどさを考えれば、ある程度そういう特別なコミュニケーションの時間をとってお互いに対してリスペクトできる関係が築けるならば、仕事の疲れ具合も全然違ってくるのではないかと思いますね。

リフレクティング・プロセス:詳細については、本誌にて詳しく紹介しています。また、より深く学びたい方は『ナラティブからコミュニケーションへ―リフレクティング・プロセスの実践』(矢原隆行・田代 順 編著/弘文堂)をご参考ください[編集部]

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