介護研究の世界へ

 

吉田:なるほど。臨床看護研究のアドバイスをされたことがきっかけになったのですね。

 

矢原:その頃、知り合いの看護師で、新たに立ち上げられた介護福祉専門学校の教務主任になられた方から「介護の分野も看護と同様に専門的な職業となっていくのであれば研究というものが必要なはずだから、そういう科目を設定して一コマあなたに持ってほしい」と誘いを受けたのです。

 

吉田:先駆的な学校ですね。

 

矢原:まさにそうなんですが、先駆的だと私が知ったのはもっと後の話です(笑)。何も知らなかったので、いわば安請け合いをした形でした。過去の例を参考にしようとしたらどこにも前例がないわけです。教科書や参考書も探したけれど見つからない。

 

吉田:今でもそうですよね。「介護研究」で検索しても矢原さんの名前しか出てこない(笑)。

矢原:看護研究だったら大型書店の2棚分くらい、びっしりと本が詰まっているのに。

 

吉田:私も一部分担して書いているのですけど、院内看護研究のガイドブックが大流行した時代がありました。院内看護研究が現場でルーチン化し、大学が増え始めて研究の「レベルアップ」が叫ばれ始めたころです。今は、かつてのように素朴に研究活動を楽しむ空気が変わってしまったことには少し疑問もあるのです。でも私自身もずっと15年くらい、いくつかの病院の院内看護研究活動のサポートをしていて、現場の看護師が研究という名目で「立ち止まって考える時間」を持つことの喜びを得たり、自分の考えていることを言葉にしていく中で元気が出るのを見ると、本当に支えがいがありますよね。

 

矢原:はい。私も最初に看護研究でのそういったいい経験があったから、介護研究の世界に飛び込んでいけたのです。自身の教育経験やたくさんの看護研究の入門書などを参考にしながら、なんとか授業を組み立てていきました。介護福祉専門学校の学生さんも、研究にやりがいを感じていきいきとするんですよね。

 

ただその後、広島県の福山市立女子短期大学に就職することになりその学校を離れてしまうと、カリキュラムから介護研究の科目がなくなってしまいました。それを聞いて悔しくなり、本を書こうと思ったんですね。最初に出した『はじめての介護研究マニュアルーアイディアから研究発表まで』(保育社)で、それまでに授業でやってきたことをまとめたところ、この本が介護職の教育者に研究方法の知識が必要だと考えておられた、上原千寿子校長(当時は、広島YMCA健康福祉専門学校校長、現在は、尾道福祉専門学校校長)のお目に止まりました。それが縁で、介護教員講習会で研究方法の講師を務めさせていただくことになりました。

 

さらに、その介護教員講習会が縁で、現場の介護福祉士の研究活動を何とかしたいと考えておられた山口県介護福祉士会の鳥居紀子会長から声をかけていただき、山口県で介護福祉士の方々と介護研究セミナーを開催することになりました。現場の皆さんに「寄り添う」というよりは、「巻き込まれる」タイプの臨床社会学者なのでしょうね(笑)。

『はじめての介護研究マニュアルーアイディアから研究発表まで』(保育社):現在は絶版。その内容を一新してその後の現場での学びも盛り込んだのが『よくわかる介護福祉研究入門』(保育社)である[矢原]

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