JBI ── Evidence Summary
〈精神看護〉
高齢者の攻撃性を治療するための抗精神病薬の使用に関する最良のエビデンスは?
Aggression in Older People: Antipsychotics
Emily Mann BSc MPH
13 June 2016
『JBI:推奨すべき看護実践』p.239
◉ 臨床上重要な事実
抗精神病薬は、行動上の症状、とくに認知症による症状を伴う高齢者の治療にしばしば用いられる。しかし、これに関する有効性のエビデンスは限定的で、混在しており、示されているものはわずかな効果のみであった。1,2,3さらに、第一世代(定型)抗精神病薬と第二世代(非定型)抗精神病薬のどちらもそれらを服用する高齢者の健康に多様で幅広い悪影響を及ぼしうるという広範囲なエビデンスがある。4米国(アメリカ)食品医薬品局は、認知症高齢者への第2世代抗精神病薬使用による死亡リスクの著しい増加に警告を出し、同様のリスクが第一世代抗精神病薬でも報告されている。3
- 認知症高齢者への第二世代抗精神病薬の効果を調べたランダム化比較試験に関するシステマティックレビューでは、包含基準に合致した30件の文献のうちほとんどすべてが、意思決定プロセスにおいて情報提供ができなかったという深刻な方法論的限界をかかえていたと結論付けた。類似したデザインを持つ研究間において矛盾した結果がみられた。1(Level1)
- レビューの著者らは、有効性が実証されていないため、精神症状および行動上の症状を伴う認知症患者への第二世代抗精神病薬の使用は避けるべきであると結論付けた。
- アルツハイマー病患者における攻撃性、興奮、精神症状の治療のための第二世代抗精神病薬の使用に関する16件のプラセボ比較試験のシステマティックレビューでは以下のことが明らかになった:2(Level1)
- リスペリドンとオランザピン治療によって攻撃性は有意に改善した。
- リスペリドン治療によって精神症状は有意に改善した。
- リスペリドンおよび/またはオランザピンは、重篤な心血管系の有害イベント、錐体外路症状、傾眠、気道感染症、尿路感染症、尿失禁、末梢浮腫、発熱、異常歩行失調、脳血管系の有害なイベントが有意に増加した。
- レビューの著者らは、アルツハイマー病患者とともに暮らす人や働く人の深刻な苦痛や身体的な危害のリスクがないのであれば、リスペリドンもオランザピンも攻撃性や精神症状のあるアルツハイマー病患者の治療に日常的に使用されるべきではないと結論付けた。
- ランダム化比較試験および観察研究を別々にみたシステマティックレビューでは以下のことが明らかになった:3(Level1)
- ランダム化比較試験では、対照群と比較して抗精神病薬使用群の死亡リスク(患者100人につき1人)が20~30%増加することを示した。
- 分析では、第二世代抗精神病薬と比較して第一世代抗精神病薬の使用によって100人の患者あたり2-7名多く死亡することが示唆された。
- ランダム化比較試験では、プラセボ群と比較して第二世代抗精神病薬による全脳血管イベントのリスクが2~3倍増加することが示された。
- 観察研究の分析では、第一、第二世代抗精神病薬の両方で股関節骨折のリスクが20~40%増加することが示された。
- 観察研究の分析では、肺炎リスクが2~3倍増加することが明らかとなった。
- 結果に基づき、レビューの著者らは、抗精神病薬が有効である攻撃性や精神症状のある高齢者11~33人につき1人の死亡があると推定した。加えて、彼らは、薬が有効である高齢者4~12人につき1人が股関節骨折による入院になり、2-5人に1人が肺炎によって入院すると推定した。
- レビューの著者らは、どちらの世代の抗精神病薬でも重篤な副反応と関連しており、分析がランダム化比較試験に限定された場合にそれらのいくつかは見逃され、これらの薬剤の使用のリスクは効果を上回る可能性があると結論付けた。
- 行動・心理症状の管理のための認知症ガイドラインに関するシステマティックレビューでは、ガイドラインが認知症による行動・心理症状(BPSD)に対する抗精神病薬の慎重な使用に同意していることが明らかになった。4(Level1)
- 以下では、ガイドライン間に合意があったため重要な推奨事項としてレビューの著者らが選択した推奨される実践を示す
- 認知症者が強い興奮、攻撃性、および/あるいは精神症状を示す場合、抗精神病薬は考慮されうる。
- 抗精神病薬が考慮される場合、第一世代抗精神病薬あるいは第二世代抗精神病薬の選択をするためにリスクと効果を個別に慎重に評価される必要がある。
- 抗精神病薬が投与される場合、投与量は、認知症者の反応と副反応の存在に応じて、上向きの用量設定で、少なくするべきである。
- 抗精神病薬による治療は、時間制限を設けるべきであり、定期的に(3ヶ月毎あるいは臨床上の必要性に応じて)再評価されるべきである。
- 一定期間行動の安定がみられれば、抗精神病薬の中止の定期的な試みを考慮する必要がある。
- 臨床医は、認知症患者と困難な行動への「化学的拘束」としての抗精神病薬の投与を取り巻く国と管轄区域における法的な問題を理解し注意する必要がある。適切な当事者の同意ない場合、重大な法律違反が生じる可能性がある。5(Level5)
- 看護師は、在宅において向精神薬の開始において重要な役割を担っている。看護師は、行動上の問題を報告し、問題行動の引き金となったもの、具体的行動および頻度と持続時間、他者が行動に反応して何をしたか、さらに居住者がどのように反応したかを記録し治療している内科医に報告する必要がある。抗精神病薬が開始されたとき、アセスメントツールは副反応の観察や、睡眠、行動、鎮静、あるいは臨床的改善の経過観察に有用である。向精神薬の中止時には注意が必要である。6(Level5)
- 後ろ向き研究では、リスペリドン、オランザピンおよびハロペリドールが死亡リスクにおいて用量反応関係を示したことが明らかになった。死亡リスクはハロペリドールで増加し、クエチアピンおよびオランザピンで減少した。7(Level3)
- システマティックレビューでは、アルツハイマー型認知症と神経精神症状(NPS)を有する高齢者が、行動に有害な影響を与えることなく長期的な抗精神病薬の使用を中止できることを観察した。2件の研究っでは、より重篤なNPSのある人にとって抗精神病薬の継続が有効であり、中止が推奨されない可能性があることを明らかにした。8(Level1)
- 文献レビューでは、興奮と攻撃性に対する抗精神病薬の使用において、興奮への有効性は限定的であるが、短期的(6~12週)にはわずかであるが攻撃性の有意な改善をもたらすことを明らかにした。抗精神病薬の長期的な使用を支持する肯定的なエビデンスは乏しく、12週かそれ以上の処方は、死亡を含む重篤な有害事象の累積リスクと関連している。最も期待できる予備的エビデンスのある薬理学的な代替手段には以下を含む:メマンチン、カルバマゼピン、シタロプラム、プラゾシン。しかし、この時点では日常的な臨床実践において使用を推奨するに十分なエビデンスはない。9(Level4)
- ランダム化比較試験では、アルツハイマー病疑いの患者において、デキストロメトルファン・キニジンの併用が興奮に臨床的な有効性を示し、概ね十分許容されたことを明らかにした。
◉ エビデンスの特性
このエビデンスの要約は、構造化された文献検索および厳選された科学的根拠に基づくヘルスケアデータベースを基盤としている。要約に含まれるエビデンスは以下のものである:
- 可能な部分でメタアナリシスを行った文献のシステマティックレビュー。1,2,3
- 臨床ガイドラインのシステマティックレビュー。4
- 専門家の意見に基づく2件の論文。5,6
- 地域で暮らす65歳以上の高齢者136393名を対象にした後ろ向き観察コホート研究。7
- 606名を含む9件のRCTによるコクランシステマティックレビュー。8
- 文献レビュー。9
- 194名を対象にしたランダム化比較試験。10
◉ References
- Gentile S. Second-generation antipsychotics in dementia: beyond safety concerns. A clinical, systematic review of efficacy data from randomised control trials. Pharmacology. 2010: 212;119-129. (Level 1)
- Ballard CG, Waite J, Birks J. Atypical antipsychotics for aggression and psychosis in Alzheimer’s disease. Cochrane Database Syst Rev. 2006: 1; 1-48. (Level 1)
- Pratt N, Roughead EE, Salter A, Ryan P. Choice of observational study design impacts on measurement of antipsychotic risks in the elderly: a systematic review. BMC Med Res Methedol. 2012; 12: 1-19. (Level 1)
- Azermai M, Petrovic M, Elseviers MM, Bourgeois J, Van Bortel LM, Stichele RHV. Systematic appraisal of dementia guidelines for the management of behavioral and psychological symptoms. Ageing Res Rev. 2012; 11: 78-86. (Level 1)
- Lewis R. Antipsychotics and aged care: a harmful mix? Australian Ageing Agenda. 2013: 17-18. (Level 5)
- Azermal M, Bourgeois J, Somers A, Petrovic M. Inappropriate use of psychotropic drugs in older individuals: Implications for practice. Aging Health. 2013;9(3):255-264. (Level 5)
- Gerhard K, Huybrechts M, Olfson S, Schneeweiss WVB, Doraiswamy PM, Devanand DP, et al. Comparative mortality risks of antipsychotic medications in community dwelling older adults. B J Psych. 2013. [Ahead of print]. (Level 3)
- Declercq T, Petrovic M, Azermal M, Stichele RV, DeSutter AIM, van Driel ML, Christiaens T. Withdrawal versus continuation of chronic antipsychotic drugs for behavioural and psychological symptoms in older people with dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(3). (Level 1)
- Ballard C, Corbett A. Agitation and aggression in people with Alzheimer’s Disease. Curr Opin Psychiat. 2013;26(3):252-259. (Level 4)
- Cummings JL, Lyketsos CG, Peskind ER, Porsteinsson AP, Mintzer JE, Scharre DW, et al. Effect of Dextromethorphan-Quinidine on Agitation in Patients With Alzheimer Disease Dementia: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015;314(12):1242-54. (Level 1)
The author declares no conflicts of interest in accordance with International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) standards.
How to cite: Emily Mann BSc MPH. Evidence Summary. Aggression in Older People: Antipsychotics. The Joanna Briggs Institute EBP Database, JBI@Ovid. 2016; JBI8444. For details on the method for development see Munn Z, Lockwood C, Moola S. The development and use of evidence summaries for point of care information systems: A streamlined rapid review approach. Worldviews Evid Based Nurs. 2015;12(3):131-8. Note: The information contained in this Evidence Summary must only be used by people who have the appropriate expertise in the field to which the information relates. The applicability of any information must be established before relying on it. While care has been taken to ensure that this Evidence Summary summarizes available research and expert consensus, any loss, damage, cost or expense or liability suffered or incurred as a result of reliance on this information (whether arising in contract, negligence, or otherwise) is, to the extent permitted by law, excluded. Copyright © 2016 The Joanna Briggs Institute licensed for use by the corporate member during the term of membership.
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