JBI ── Evidence Summary

〈精神看護〉

ベンゾジアゼピン受容体作動薬における最良のエビデンスは?

 

Insomnia (Adults): Pharmacological Treatment (Benzodiazepine Receptor Agonists)

Dr Rasika Jayasekara RN, BA, BScN(Hons), PGDipEdu, MNSc, MClinSc, PhD

3 July 2016

 

JBI:推奨すべき看護実践』p.229

 

 

 

◉ 臨床上重要な事実

 

不眠症の定義は分類システムによって異なり、現在、以下の3つの分類システムで定義されている:睡眠障害国際分類(ICSD)、世界保健機関の国際疾病分類(ICD-10)、アメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)。1不眠症とは、就寝時の入眠困難、非回復性睡眠あるいは睡眠の質の低さを指す。1-2通常、不眠症は30日以内の場合、急性とみなされる。1不眠症が別の状況に関連付けられている場合、それは二次性不眠症とみなされる。1不眠症の薬物療法には、ベンゾジアゼピン受容体作動薬(BzRAs)を含む様々な薬剤が用いられる。BzRAsには異なる2つのタイプがある:ベンゾジアゼピン系BzRAs(例えば、エスタゾラム)と非ベンゾジアゼピン系BzRAs(例えばゾルピデム)である。1-3

 

  • ナラティブレビューの著者らは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬が原発性不眠症の治療の第1選択薬であると述べた。ゾルピデムやザレプロンのような非ベンゾジアゼピン系BzRAs剤は入眠困難に用いられ、ゾルピデム徐放剤は入眠維持障害に用いられる。エスゾピクロンは入眠困難と睡眠維持障害の患者に用いられる。ベンゾジアゼピン系BzRAs剤に関し、著者らはトリアゾラムが入眠困難の治療に用いられ、フルラゼパムは睡眠維持障害を改善しうることを指摘した。また、著者らは抗うつ薬と併用したエスゾピクロンの投与がうつ病や不安のある患者の不眠症症状や気分を改善しうることも指摘している。ゾルビデム徐放剤の抗うつ薬との併用は全般性不安障害の患者の睡眠の質と翌日の症状を改善しうる。1(Level5)
  • ナラティブレビューの著者らは、不眠症治療薬(ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系のような)の副反応がたいてい用量依存性をもつため、効果的な最小用量を使用するべきであるとコメントしている。2(Level5)
  • ナラティブレビューの著者らは、不眠症の患者への影響が深刻である場合や患者の安全性やQOLが脅かされている場合に不眠症薬物療法は考慮されるべきであることを推奨していた。彼らは、研究によるエビデンスと臨床経験がベンゾジアゼピン受容体作動薬の使用を支持しているとコメントした。BzRAsは、原発性や二次性、急性、亜急性あるいは慢性という不眠症のタイプに関係なく、不眠症治療に非常に有効であると考えられている。著者らは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬が短期間において不眠症治療に有効であると結論付けている。3(Level5)
  • ナラティブレビューの著者らは、BzRAsが最良の実証的エビデンスによって支持されており、不眠症の短期間の管理において有効であると結論付けている。使用する不眠治療薬の選択は薬の薬理学的特性と患者に関連する要因(不眠症症状の性質、年齢、過去の治療への反応性、禁忌、併存症と費用)に基づいてなされるべきである。彼らはまた、薬物療法開始後1ヶ月以内に患者を再評価し、その後、少なくとも6か月ごとの有効性と潜在的な副反応の評価を行う必要があることを推奨していた。また、薬物療法継続の必要性は薬剤の定期的な中止を試みることで決定されるべきである。4(Level5)
  • ナラティブレビューの著者らは、原発性不眠症が、睡眠衛生や床上時間の制限、あるいは行動介入によるプライマリケアで効果的に治療することができると結論付けた。また、他のアプローチが失敗した時の最終手段として薬物療法が使用されるべきであると結論付けた。著者らは、ベンゾジアゼピンによって睡眠の遅れが改善し、総睡眠時間が増加し、抗うつ薬や抗精神病薬による鎮静より副反応が有意に少ないことが示されていることを指摘した。彼らはまた、ベンゾジアゼピンが「必要に応じて」、週に最大頻度で3晩以下で使用することを推奨した。5(Level5)
  • ブラジルの不眠症診断と治療のためのガイドラインでは、ベンゾジアゼピンを含む原発性不眠症の治療のための異なる薬物療法の選択肢が推奨されている。薬物療法の適応と用量に対して特定の推奨事項が示されている。6(Level5)
  • 日本の一般診療における不眠マネジメントに関するコンセンサス・レポートでは、一定期間症状が持続し、睡眠に適した就眠環境であっても患者が眠れない時、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を含む薬物療法が考慮されるべきであると推奨している。著者らは、薬剤の用量が、減量/中止されるとき、反跳性不眠のような考えられる変化を患者に説明し、4-8週間かけて、減薬/中断することを推奨している。7(Level5)
  • プライマリケアにおける不眠マネジメントに関する(システマティックレビューによる)エビデンスに基づく臨床実践ガイドラインでは、ベンゾジアゼピン薬剤(フルラゼパムやトリアゾラム、クアゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム、フルニトラゼパム、ブロチゾラム、ジアゼパム、ニトラゼパム、エスタゾラム、テマゼパム)の睡眠時間に関する有効性が示されており、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾルビデム、ゾピクロン、ザレプロン)の不眠症治療において短期的な有効性が示されていると記している。もし、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系薬剤が使用される場合、治療は短期間で行われ、必要最小限の使用量であることが推奨されている。8(Level1)
  • 成人における慢性的不眠症の評価とマネジメントに関するアメリカ臨床ガイドラインでは、短期薬物療法は可能な限り認知行動療法によって補完されるべきであることを推奨している。また、ガイドラインでは、症状のパターン、治療目標、過去の治療への反応、患者の好み、費用、他の治療の有用性、併存症の状態、禁忌、併用薬との相互作用、副反応によって、薬物クラス内での特定の薬剤の選択がなされるべきであることを推奨している。さらに、ガイドラインの著者らは、原発性慢性不眠症患者に対して、ラメルテオン、鎮静抗うつ薬、抗てんかん薬(ガバペンチン、チアガピン)や抗精神病薬のような他の薬剤を含め、ゾルビデム、エゾピクロン、ザレプロン、テマゼパムなどの短時間作用型、中間作用型ベンゾジアゼピン受容体作動薬から始まる一連の投薬を推奨している。ガイドラインの著者らは、慢性不眠症の薬物療法が治療目標と期待、安全性への懸念、潜在的な副反応と薬剤の相互作用、他の治療方法の存在(認知行動療法)、投与量の増加の可能性、および反跳性不眠に関する患者教育とともに行われるべきであることを推奨している。著者らは、また、薬物療法が重度または難治性不眠症、慢性疾患の併存を有する人に対して長期に行われるかもしれないとコメントし、可能な限り、患者は長期の薬物療法中に認知行動療法を受けるべきであることを推奨している。また、ガイドラインでは、以下のことも推奨されている。有効性の継続的な評価、副反応のモニタリング、既存の併存疾患の新たな症状あるいは悪化に対する評価しながら長期間の薬物療法を行うべきであり、また長期投与は夜間あるいは断続的、必要に応じて行われる。9(Level5)
  •  •英国精神薬理学会における不眠症、睡眠時随伴症、概日リズム障害のエビデンスに基づく治療に関するコンセンサス声明の著者らはいわゆるZ薬(ゾルビデム、ザレプロン、エゾピクロンなど)や短時間作用型ベンゾジアゼピンが不眠症に対して有効であると考えている。長期間の薬物療法に関し、著者らは、エゾピクロンとゾルビデムを用いた1年の治療で依存性(耐性/離脱)が避けられず、断続的な薬物療法が耐性と依存のリスクを低減すると述べている。10(Level5)
  • 成人の慢性不眠症の治療における薬物療法の使用に関する(メタアナリシスを実施した)システマティックレビューの著者らは、ベンゾジアゼピンと非ベンゾジアゼピンが慢性不眠症のマネジメントで有効な治療ではあるが、害となるリスクもあると結論付けている。11(Level1)
  • ナラティブレビューの著者らは、入眠困難への治療を求める原発性不眠床の成人に対する有用な薬物療法は、トリアゾラム、エスタゾラム、テマゼパム、ゾルビデム、ゾルピデム徐放剤、ザレプロン、エスゾピクロンであると考えており、目標が睡眠を維持する力の改善であれば、考慮される薬剤は、トリアゾラム、エスタゾラム、、テマゼパム、エスゾピクロン、ゾルピデム徐放剤である。また、トリアゾラムやエスタゾラム、テマゼパム、ゾルピデム徐放剤、エスゾピクロンのような薬剤は、入眠と睡眠の維持の両方に有効であると考えられている。12(Level5)
  • ベンゾジアゼピン受容体作動薬と心理療法、行動療法に関するナラティブレビューでは、最大4週間の短期治療において、ベンゾジアゼピン受容体作動薬がプラセボ群と比較して臨床的な有効性が有意であり、中程度から大きな効果量を有していたと結論付けている。また著者らは、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期的な有効性を評価するにはデータが不十分であるが、夜間の使用については、1年までの期間で安定的な有効性が示されている初期のエビデンスがあると述べている。著者らはまた、ベンゾジアゼピン受容体作動薬と比較し、心理療法的/行動療法的戦略が、積極的治療中に同程度の結果を生み、積極的な薬物療法より優れた持続性があると結論付けている。13(Level5)
  • 文献レビューでは、Z薬の使用が重度または消耗性の不眠のケースに対してのみであり、また、2-4週間までの低用量のみ推奨されている。14(Level5)
  • メタアナリシスでは、臨床医が原発性不眠症のために抗うつ薬(低用量のドキセピン)よりもベンゾジアゼピン受容体作動薬と古典的なベンゾジアゼピンを好むと結論付けている。15(Level1)
  • レビューでは、エスゾピクロン、ゾルビデム、スボレキサントが不眠症のある成人の短期的な全体的および睡眠の結果を改善するが、比較した有効性や長期的な薬物療法の有効性についてはまだわかっていないと結論付けている。16(Level5)

 

◉ エビデンスの特性

 

このエビデンスの要約は、構造化された文献検索および厳選された科学的根拠に基づくヘルスケアデータベースを基盤としている。要約に含まれるエビデンスは以下のものである:

 

  • 複数のナラティブレビュー。1-5、12-13
  • ブラジルの不眠症診断と治療のためのガイドライン。6
  • 日本の一般診療における不眠マネジメントに関するコンセンサス・レポート。7
  • プライマリケアにおける不眠マネジメントに関する(システマティックレビューによる)エビデンスに基づく臨床実践ガイドライン。8
  • 成人における慢性的不眠症の評価とマネジメントに関するアメリカ臨床ガイドライン。9
  • 英国精神薬理学会における不眠症、睡眠時随伴症、概日リズム障害のエビデンスに基づく治療に関するコンセンサス声明。10
  • 成人の慢性不眠症の治療における薬物療法の使用に関する(メタアナリシスを実施した)システマティックレビュー。11
  • 不眠症薬のクラスを調査し、リスク/有効性の関連を検証した文献レビュー。14
  • 3820名の参加者を含む31件の無作為化比較対象試験のメタアナリシス。15
  • アメリカ医師会による臨床診療ガイドラインのエビデンス報告書。16

 

◉ References

 

  1. Deak MC, Winkelman JW. Insomnia. Neurol Clin. 2012; 30: 1045–1066. (Level IV)
  2. Bootzin RR, Epstein DR. Understanding and Treating Insomnia. Annu Rev Clin Psychol. 2011;7:435–58. (Level 5)
  3. Ioachimescu O, El-Solh AA. Pharmacotherapy of insomnia. Expert Opin. Pharmacother. 2012; 13(9): 1243-1260. (Level 5)
  4. Morin CM, Benca R. Chronic insomnia. Lancet. 2012; 379: 1129-41. (Level IV)
  5. Falloon K, Arroll B, Elley CR, Fernando A III. The assessment and management of insomnia in primary care. BMJ. 2011; 342 (Level 5)
  6. Pinto Jr LR, Cardoso Alves R, Caixeta E et al. New guidelines for diagnosis and treatment of insomnia. Arq Neuropsiquiatr 2010; 68(4): 666-675. (Level 5)
  7. Uchiyama M, Inoue Y, Uchimura N, Kawamori R, Kurabayashi M, Kario K, et al. Clinical significance and management of insomnia. Sleep Biol Rhythms 2011; 9: 63–72. (Level 5)
  8. Guideline Development Group for the Management of Patients with Insomnia in Primary Care; Clinical Practice Guidelines for the Management of Patients with Insomnia in Primary Care; National Health System Quality Plan, Ministry of Health and Social Policy; Health technology Assessment Unit. Lain Entralgo Agency. Community of Madrid; 2009. Clinical Practice Guidelines in the NHS: UETS No. 2007/5-1. (Evidence-based clinical practice guideline based on systematic reviews) (Level 1)
  9. Schutte-Rodin S, Broch L, Buysse D, Dorsey C, Michael Sateia M. Clinical Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Insomnia in Adults. J Clin Sleep Med. 2008; 4(5): 487-504. (Level 5)
  10. Wilson SJ, Nutt DJ, Alford C, Argyropoulos SV et al. British Association for Psychopharmacology consensus statement on evidence-based treatment of insomnia, parasomnias and circadian rhythm disorders. J Psychopharmacol. 2010; 24(11): 1577–1600. (Level 5)
  11. Buscemi N, Vandermeer B, Friese C et al The Efficacy and Safety of Drug Treatments for Chronic Insomnia in Adults: A Meta-analysis of RCTs. J Gen Intern Med. 2007; 22:1335-1350. (Level 1)
  12. Krystal AD. A compendium of placebo-controlled trials of the risks/benefits of pharmacological treatments for insomnia: The empirical basis for U.S. clinical practice. Sleep Med Rev. 2009; 13: 265–274. (Level 5)
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  14. Zisapel N. Drugs for insomnia. Expert Opin Emerg Drugs. 2012 Sep;17(3):299-317. (Level 5)
  15. Winkler A, Auer C, Doering BK, Rief W. Drug treatment of primary insomnia: a meta-analysis of polysomnographic randomized controlled trials. CNS Drugs. 2014;28(9):799-816. (Level 1)
  16. Wilt TJ, MacDonald R, Brasure M, Olson CM, Carlyle M, Fuchs E, et al. Pharmacologic treatment of insomnia disorder: an evidence report for a clinical practice guideline by the American College of Physicians. Ann Intern Med. 2016:1-10. (Level 5)

 

 

The author declares no conflicts of interest in accordance with International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) standards. How to cite: Dr Rasika Jayasekara RN, BA, BScN(Hons), PGDipEdu, MNSc, MClinSc, PhD. Evidence Summary. Insomnia (Adults): Pharmacological Treatment (Benzodiazepine Receptor Agonists). The Joanna Briggs Institute EBP Database, JBI@Ovid. 2016; JBI7335. For details on the method for development see Munn Z, Lockwood C, Moola S. The development and use of evidence summaries for point of care information systems: A streamlined rapid review approach. Worldviews Evid Based Nurs. 2015;12(3):131-8. Note: The information contained in this Evidence Summary must only be used by people who have the appropriate expertise in the field to which the information relates. The applicability of any information must be established before relying on it. While care has been taken to ensure that this Evidence Summary summarizes available research and expert consensus, any loss, damage, cost or expense or liability suffered or incurred as a result of reliance on this information (whether arising in contract, negligence, or otherwise) is, to the extent permitted by law, excluded. Copyright © 2016 The Joanna Briggs Institute licensed for use by the corporate member during the term

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この「JBI─Evidence Summary」を根拠とする、推奨すべき実践ベストプラクティスを以下の書籍で詳しくご紹介しています。

JBI ── Evidence Summary

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『JBI:推奨すべき看護実践

〜海外エビデンスを臨床で活用する

植木慎悟・山川みやえ 編  牧本清子 監修

The Joanna Briggs Institute 協力

日本看護協会出版会 刊行

世界中の膨大な看護ケアに関する文献を収集し、分析と統合を行うJoanna Briggs Instituteのエビデンス情報の中から、日本の各分野のCNSなどが43の具体的な看護場面を取り上げました。わが国の臨床事情を踏まえてコメントと解説を加えた最新のベストプラクティス集です。>> 詳細