JBI ── Evidence Summary

〈母性看護〉

授乳中の母親における乳腺炎の症状緩和に関する最良のエビデンスは?

 

Mastitis

Long Khanh-Dao Le, B.Pharm, MPH, MHHSM.

30 August 2017

 

JBI:推奨すべき看護実践』p.283

 

 

 

◉ 臨床上重要な事実

 

乳腺炎は、主に授乳中の女性の乳汁のうっ滞による乳房の炎症である。 乳腺炎の原因には、授乳中の児の乳房へのアタッチメント(吸着)不良、授乳時間が少ないもしくは制限されていることがある。 乳腺炎の病因は感染性であることもないこともある。 非感染性乳腺炎は、局所的に乳房が張り、乳管に乳汁がうっ滞することで起こる。 乳房の患部は、圧痛があり、発赤があり、硬化するが、一般的には全身症状とは関連しない。 感染性乳房炎の症状には、片側性の発赤、圧痛、患部側の乳房の腫脹などがあり、インフルエンザのような症状を経験することがある。 乳腺炎は母乳育児を継続することに影響を与える可能性があるため、迅速で効果的な管理を確実にすることが重要である1

 

  • 専門家の意見では乳房の発赤があり熱を帯び圧痛のある部分は、児が正しく吸着できているかどうかを確認しながら、必要に応じて母乳育児を続けるよう奨励している。 インフルエンザのような症状が現れた場合は、抗生物質による治療が必要になることがある2(レベル5)
  • システマティックレビューでは、乳腺炎に対する抗生物質の効果を評価している。 1件の研究では2種類の抗生物質(アモキシシリン対セフラジン)を比較したが、別の研究では、乳房を空にする(母乳排出)ケアまたは無治療と比較して、乳房を空にするケアと抗生物質療法の組み合わせを評価した。前者の研究では、アモキシシリンまたはセフラジンのいずれかを服用した2つのグループで、7日後に症状の改善が見られた(医師による評価)。抗生物質間に統計的に有意な差はなかった。後者の研究では、乳房を空にするケアと抗生物質療法を組み合わせた女性は、症状の持続期間が短いことが報告されている1(レベル1)
  • 乳腺炎の発生または母乳育児の開始やその期間に関して母乳育児教育、薬理学的治療、代替療法などの介入の有効性を示すエビデンスは十分ではない。3(レベル1)
  • (注:この英文では母乳育児と書いている部分をbreastfeeding exclusivity、母乳育児の中でも完全母乳のことを指していた。しかし、元となった文献では breastfeeding initiation、完全母乳以外も含む母乳育児の開始と記載されていたため、そちらの訳を採用する)
  • 母乳育児医療アカデミー(注:母乳育児の推進、保護、支援を専門とする世界的な医師団体)のガイドラインによると、炎症に関連する症状を管理するために、乳腺炎の女性には鎮痛剤を投与する必要がある4(レベル5)。
  • 安静、適切な水分と栄養は、乳腺炎を管理する不可欠な支援策である。 さらに、ホットパック(注:温罨法と思われる)は授乳前に乳房に貼付して乳汁の流れをスムーズにし、コールドパック(注:冷罨法と思われる)は授乳後の疼痛と浮腫を軽減し得る4(レベル5)。
  • 肉芽腫性乳腺炎患者においてステロイド療法と比較して切除療法は、治癒が早く少ない合併症で厳密な診断の提供ができ、優れていることがわかった。ステロイド療法は難治性の症例や変形が避けられない場合に有用である5(レベル4)
  • Lactobacillus fermentum CECT5716(発酵乳酸杆菌、ラクトバチルス・ファーメンタム)の経口投与による授乳中の女性の乳腺炎の予防効果を評価するために、ランダム化比較試験(RCT)が実施された。 研究では、授乳中のLactobacillus fermentum CECT5716の経口投与により、プラセボと比較して臨床型乳腺炎の発症率が51%減少したことがわかった(0.130対0.263、p = 0.021)6(レベル1)

 

◉ エビデンスの特性

 

このエビデンスの要約は、構造化された文献検索および厳選された科学的根拠に基づくヘルスケアデータベースを基盤としている。要約に含まれるエビデンスは以下のものである:

 

  • 125人の女性を含む2つのRCTからなるコクランのシステマティックレビュー1
  • エビデンスに基づいたガイドライン2
  • 960人の女性を含む5つのRCTからなるコクランのシステマティックレビュー3
  • 母乳育児医療アカデミーのガイドライン4
  • 組織学的診断を伴う31例の後ろ向き分析5
  • 625人の参加者を含むRCT6

 

 

◉ References

 

  1. Jahanfar S, Ng CJ, Teng CL. Antibiotics for mastitis in breastfeeding women. Cochrane Database Syst Rev. 2013;2. (Level 1)
  2. Demott K, Bick D, Norman R, Ritchie G, Turnbull N, Adams C, et al. Clinical guidelines and evidence review for post natal care: routine post natal care of recently delivered women and their babies. 2006. London: National Collaborating Centre for Primary Care and Royal College of General Practitioners. (Level 5)
  3. Crepinsek MA, Crowe L, Michener K, Smart NA. Interventions for preventing mastitis after childbirth. Cochrane Database Syst Rev. 2012; 10. (Level 1)
  4. Amir LH, Academy of Breastfeeding Medicine Protocol Committee. ABM clinical protocol#4: mastitis (revision). Breastfeed Med. 2014; 9(5):239-43. (Level 5)
  5. Kayahan M, Kadioglu H, Muslumanoglu M. Management of patients with granulomatous mastitis: analysis of 31 cases. Breast Care (Basel). 2012 Jun; 7(3):226-230. (Level 4)
  6. Hurtado JA, Maldonado-Lobón JA, Díaz-Ropero MP, Flores-Rojas K, Uberos J, Leante JL, et al. Oral administration to nursing women of Lactobacillus fermentum CECT5716 prevents lactational mastitis development: a randomized controlled trial. Breastfeed Med. 2017;12(4):202-9. (Level 1)

 

 

The author declares no conflicts of interest in accordance with International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) standards.

How to cite: Long Khanh-Dao Le, B.Pharm, MPH, MHHSM.. Evidence Summary. Mastitis. The Joanna Briggs Institute EBP Database, JBI@Ovid. 2017; JBI510. For details on the method for development see Munn Z, Lockwood C, Moola S. The development and use of evidence summaries for point of care information systems: A streamlined rapid review approach. Worldviews Evid Based Nurs. 2015;12(3):131-8. Note: The information contained in this Evidence Summary must only be used by people who have the appropriate expertise in the field to which the information relates. The applicability of any information must be established before relying on it. While care has been taken to ensure that this Evidence Summary summarizes available research and expert consensus, any loss, damage, cost or expense or liability suffered or incurred as a result of reliance on this information (whether arising in contract, negligence, or otherwise) is, to the extent permitted by law, excluded. Copyright © 2017 The Joanna Briggs Institute licensed for use by the corporate member during the term of membership.

この「JBI─Evidence Summary」を根拠とする、推奨すべき実践ベストプラクティスを以下の書籍で詳しくご紹介しています。

JBI ── Evidence Summary

この「JBI─Evidence Summary」を根拠とする、推奨すべき実践ベストプラクティスを以下の書籍で詳しくご紹介しています。

『JBI:推奨すべき看護実践

〜海外エビデンスを臨床で活用する

植木慎悟・山川みやえ 編  牧本清子 監修

The Joanna Briggs Institute 協力

日本看護協会出版会 刊行

世界中の膨大な看護ケアに関する文献を収集し、分析と統合を行うJoanna Briggs Instituteのエビデンス情報の中から、日本の各分野のCNSなどが43の具体的な看護場面を取り上げました。わが国の臨床事情を踏まえてコメントと解説を加えた最新のベストプラクティス集です。>> 詳細