JBI ── Evidence Summary

〈慢性疾患看護〉

在宅ケア施設での服薬管理に関する最良のエビデンスは?

 

Medication Management in Residential Aged Care

Yimei Li, MBBS, MMed, MPH

10 May 2018

 

JBI:推奨すべき看護実践』p.110

 

 

 

◉ 臨床上重要な事実

 

在宅高齢者ケアにおける高齢者は、高齢者集団内でも一般的に最も病気になりやすく、最も脆弱である。疾患や合併症の有病率が高いため、高齢者の薬物療法の必要性は高く、複雑である。1在宅ケア施設における服薬管理は、地域の法律(法令)/ガイドラインに従って実施されなければならない。1

 

  • 在宅ケアにおいて、薬物療法は通常、薬物療法の資格をもつ正看護師(RN)、あるいは高齢者(そうする能力があると評価された高齢者)による自己管理によって行うことができる。1(Level5)
  • 臨床実践ガイドラインでは、在宅ケア施設における最適な薬物管理には学際的かつ体系的アプローチが含まれると指摘している。1(Level5)

 

〈服薬チャートの使用〉

  • レスパイトケアを受ける人を含むすべての高齢者のための標準的な服薬チャートの使用はガイドラインで推奨されている。1(Level4)
  • チャートには、識別を目的として、指名と生年月日が裏面に記載された最近の高齢者の写真が含まれるべきである。1,2(Level5)

 

〈薬剤の見直し〉

  • ガイドラインでは、高齢者の薬物療法は、関連する現地の専門的ガイドラインや法律に詳しい医療専門職チームのメンバーによって見直されるべきであることが推奨されている。1(Level5)
  • 定期的な包括的薬物療法の見直しは6-12か月ごとに実施され、とくに脆弱性のある高齢者や認知機能障害をもつ人に対して行われる。3(Level4)
  • オーストラリアでは、多剤併用を減らすため、複数の薬剤を使用している消費者は、医師から認定薬剤師への紹介時に、毎年政府が資金提供する(メディケア)薬剤師の評価を受けることができる。3(Level4)
  • ケアに言及している患者(n=46)の薬剤に関連する問題に関する研究では、患者が中央値で9種類の薬剤を服用しており、そのうち3種類が医療記録に記載されていなかったことを明らかにした。43%の患者で、少なくとも1つの用量の不一致がみつかった。3(Level4)
  • 医師(MPs)による訪問の影響とナーシングホームにおける不適切な薬剤の消費に関する包括的な再処方の見直しを調査した評価研究が行われた。2人の医師が4つのナーシングホームへ包括して1回で訪問し、高齢者1人一人の処方記録を見直し、不適切な薬剤の中止/変更を行った。その結果、65%の高齢者で再処方の変更が指示された:ある薬剤は51%のケースで中止され、ある薬剤は、26%のケースでより安価なものに変更されたか用量が減った。再処方された薬剤の平均数が減ったことも報告された。4(Level4)

 

〈一包化の使用〉

  • ガイドラインは、在宅ケア施設における一包化(DAAs)の利用を推奨している。1,2(Level5)
  • DAAsは投薬の資格を持つRN(正看護師)がいない際に薬物療法を提供するため、あるいは服薬自己管理を行う高齢者をサポートするために使用されるべきである。1,2(Level5)
  • 薬剤の処方内容を変更する場合は、再一包化のためにDAA全体を薬剤師に返却する必要がある。1(Level5)
  • 「ブリスター」包装システムあるいは薬剤師によって調剤、ラベル付けされた「区画化ボックス」の使用が文献では示唆されている。2(Level5)

 

〈継続処方〉

  • 文献では、高齢者の臨床状態の変化に対する新たな薬剤の投与のための継続処方は、在宅ケア施設においては避けるべきであることを示唆している。2(Level5)
  • 施設内で緊急用の医薬品を入手する必要がある場合がある。あらゆる医薬品の緊急供給は現地の法律(法令)/ガイドラインに従って手配する必要がある。2(Level5)
  • このような緊急薬を使用できる状況と必要な書類を明確に示す必要がある。2(Level5)
  • コホート研究では、薬剤適切性指数(MAI)によって測定された薬剤使用の妥当性に関する薬剤師による在宅ケアの薬物管理レビュー(RMMRs)の実施による影響が調査された。本研究では、MAI得点の減少によって薬剤師主導の薬剤の見直しが在宅高齢ケア施設の居住者間での不適切な処方の減少に有効であることを示した。12(Level3)

 

〈看護師によって開始される薬剤〉

  • 看護師によって開始される薬剤は、投与量と禁忌を含むプロトコルが定義された薬剤リストから選択されなければならない。1(Level5)
  • 薬を見直す際、医師はこの薬物リストを提供される必要がある。1(Level5)
  • 医師、薬剤師、正看護師による見直しは、薬剤処方に変更がある場合は常に必要とされる。2(Level5)

 

〈服薬自己管理〉

  • 同意文書はコピーを取り、高齢者に渡すことが推奨されている。1(Level5)
  • 服薬自己管理の導入前に、服薬自己管理が高齢者によって安全に実施できるかどうかを確認するための公的なアセスメントが求められる。2(Level5)
  • 109名の独居高齢者を対象とした横断研究では、服薬自己管理ツールに関する知識の低さが報告された。参加者の40%は処方薬を簡素化するために支援者に依頼することが出来ることに気付いておらず、薬剤の簡素化を支援者に依頼していた者は20%未満であった。著者らは、薬物管理を容易にする薬剤師の役割や複雑な処方を簡素化するための選択肢に対する認識を高めるために教育的戦略が必要であると結論付けた。このような服薬教育の提供は薬局の範囲内である。5(Level5)
  • 臨床介入として長期間の服薬自己管理のアドヒアランスを改善するための思い出しやすい包装を含めた12件の研究(2,196名の参加者)を含むシステマティックレビューでは、自己報告ではなく錠剤数のカウントで判断すると、思い出しやすい包装によってアドヒアランスが向上する様子が認められた。思い出しやすい包装には以下のものを含む:錠剤ボックス、中が透けて見えるプラスチックの包み、服用する日/時間が記載されたボトルあるいは使い捨て容器。6(Level1)
  • 1件の試験からの患者のフィードバックには、よりフォントサイズが大きく、持ち運びしやすいリマインダーとして機能する財布サイズのカードで各薬剤の効能が記載されているようなものの提案が含まれていた。6(Level1)
  • 思い出しやすい包装が血圧の様な臨床的アウトカムの改善に有効である可能性があるいくつかのエビデンスがある。6(Level1)

 

〈経口薬の変更〉

  • 徐放剤は、薬剤師との相談なしに粉砕、変更されるべきではない。1(Level5)
  • 固形薬の用量や用法の変更は服薬チャートに記録(文書化)される必要がある。1(Level5)
  • 錠剤の粉砕、カプセルを開くことは嚥下困難な高齢者への薬の投与を容易にすることができる。このような変更によって、効果が減少したり、毒性のリスクが大きくなったり、味や食感によって高齢者に受け入れられないようになったりすることはない。2(Level5)
  • 粉砕あるいは噛んではいけない薬剤のリストは容易に利用可能な場所に置いておく必要がある。

 

〈薬の保管と処分〉

  • ガイドラインでは、在宅ケア施設において、その施設の規則に従って、自己管理薬も含めてすべての薬は安全に保管すべきであることを推奨している。2(Level5)
  • 特定の薬剤、例えば冷蔵を必要とするものなど推奨される保管条件は確保されなければならない。2(Level5)
  • 施設では、返却、期限切れ、不要な薬剤を処分するための仕組み(メカニズム)を備えていなければならない。2(Level5)

 

〈その他の管理指針〉

  • 特定の変更された用量薬(例えば、細胞傷害性薬物)の投与に関する労働安全衛生上の問題を考慮して、施設の指針及び手順に含まれるべきである。1(Level5)
  • 施設は、スタッフ、高齢者、介護者、訪問医療専門職のための利用可能な薬剤情報に関する最新の情報源を持っている必要がある。
  • 施設内で補完的で代替的な自己選択薬の管理に関する文書化された指針の開発が推奨される。2(Level5)
  • 総合診療医の訪問と再処方の包括的な見直しがナーシングホームでの不適切な薬剤の数を減らしうるかどうかを評価した研究が行われた。この研究の著者らは、1回の総合診療医の訪問と見直しが不適切な薬剤の消費を大幅に減らすことを報告した。4(Level4)
  • 医師や看護スタッフ、薬剤管理者、ナーシングホームの指導者を含む様々なユーザーに情報を統合するポイントを提供する実装研究を行った。この著者らは、テクノロジーの実装単独では慢性的な構造とプロセスの問題を解決できないと報告した。しかし、テクノロジーを使用してプロセスを合理化し、効果的な意思決定をサポート、複雑な業務の統合と薬剤安全チームへのリアルタイムデータの提供によって、技術の効果を最大化し、大規模な変更による意図しない結果を最小限に抑える効果的な仕組み(メカニズム)を提供した。7(Level4)
  • 高齢者が自身の疾患に対し最も効果的で安全な薬物療法を受けることを確認にするための行動を医療専門職がとっているかについての研究を調査するためにコクランシステマティックレビューが行われた。実行された行動には、コンピューターによる意思決定支援とファーマシューティカルケア、薬剤関連の問題の特定、予防、解決を含む薬剤師によって提供されるサービス、薬の正しい使用の促進、健康増進と教育が含まれていた。著者らは、高齢者が確実に正しい薬を服用し、薬剤関連の問題を減らすするためのファーマシューティカルケアのような介入が成功する可能性があるとするエビデンスは限られていると報告している。8(Level1)
  • 介護施設で暮らす高齢者に対する処方を最適化する介入の効果を決定するためにコクランシステマティックレビューが行われた。著者らは、薬剤の見直し、スタッフ教育、意思決定支援技術(テクノロジー)が有効な可能性はあるが、エビデンスは頑健ではないと報告している。9(Level1)
  • 全国調査では、在宅ケア施設の施設規模と所有状況が以下の4つすべての電子医薬品管理(EMM)機能の採用と有意に関連していることが報告された:薬剤リストの維持、処方オーダー、有効な薬剤アレルギーリストの維持、薬剤相互作用あるいは禁忌の警告。10(Level4)
  • コホート研究では、長期療養ケア施設の入居者に対し高齢者専門医によってビデオ相談を通じて服薬アドバイスが行われたことにより、潜在的に不適切なハイリスク薬が中程度に広がっていることが明らかになったと報告された。11(Level3)

 

 

◉ エビデンスの特性

 

このエビデンスの要約は、構造化された文献検索および厳選された科学的根拠に基づくヘルスケアデータベースを基盤としている。要約に含まれるエビデンスは以下のものである。

 

  • 2件のオーストラリアの臨床実践ガイドライン。1,2
  • 46名の参加者を含む薬剤師主導の薬剤の見直しと評価に関する研究。3
  • 2名の総合診療医が無作為に選択したナーシングホームを訪問し、上級職員とすべての患者について議論し、処方記録を見直した評価研究。この研究では、109名のナーシングホーム入居者が含まれた。4
  • 終身介護コミュニティーに暮らす109名の高齢者を含む横断研究。5
  • コクランシステマティックレビュー。6
  • 中西部の5つのナーシングホームと提携し、電子ポイントオブケア薬剤管理記録(eMAR)と焦点を絞った品質改善(QI)の取り組みを実施した研究。7
  • 10件の研究を含むコクランシステマティックレビュー。8
  • 6つの国、262のケア施設から7653名の参加者を対象にした8件の研究を含むコクランシステマティックレビュー。9
  • 31134名の在宅ケア施設入居者を含む全国調査。10
  • 153名の入居者を含むコホート研究。11
  • 223名の高齢者ケア施設入居者を含むコホート研究。12

 

◉ References

 

  1. The Royal Australian College of General Practitioners. Medical care of older persons in residential aged care facilities (4th edition). Australian Government Department of Health and Ageing. 2006. (Level 5)
  2. Australian Pharmaceutical Advisory Council. Guidelines for medication management in aged care facilities. Commonwealth Government of Australia. 2002. (Level 5)
  3. Elliott RA, Woodward MC. Medication-related problems in patients referred to aged care and memory clinics at a tertiary care hospital. Aust J Ageing. 2010; 30(3):124-129. (Level 4 )
  4. Khunti K, Kinsella B. Effect of systematic review of medication by general practitioner on drug consumption among nursing-home residents. Age Ageing. 2000; 29(5):451-453. (Level 4)
  5. Lakey SL, Gray SL, Borson S. Assessment of older adults' knowledge of and preferences for medication management tools and support systems. Ann Pharmacotherapy. 2009;43(6):1011-9. (Level 4)
  6. Mahtani KR, Heneghan CJ, Glasziou PP, Perera R. Reminder packaging for improving adherence to self-administered long-term medications. Cochrane Database Syst Rev. 2011; 9. (Level l)
  7. Scott-Cawiezell J, Madsen RW, Pepper GA, Vogelsmeier A, Petroski G, Zellmer, D. Medication safety teams' guided implementation of electronic medication administration records in five nursing homes. J Comm J Qual Patient Safety. 2009; 35(1):29-35. (Level 4)
  8. Patterson SM, Hughes C, Kerse N, Cardwell CR, Bradley MC. Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older people. Cochrane Database of Syst Reviews 2012; 5. (Level l)
  9. Alldred DP, Raynor DK, Hughes C, Barber N, Chen TF, Spoor P. Interventions to optimise prescribing for older people in care homes. Cochrane Database Syst Rev. 2013;2. (Level 1)
  10. Bhuyan SS, Chandak A, Powell MP, Kim J, Shiyanbola O, Zhu H, et al. Use of information technology for medication management in residential care facilities: correlates of facility characteristics. J Med Syst. 2015;39(6):70. (Level 4)
  11. Poudel A, Peel NM, Mitchell CA, Gray LC, Nissen LM, Hubbard RE. Geriatrician interventions on medication prescribing for frail older people in residential aged care facilities. Clin Interv Aging. 2015;10:1043-51. (Level 3)
  12. Koria LG, Zaidi TS, Peterson G, Nishtala P, Hannah PJ, Castelino R. Impact of medication reviews on inappropriate prescribing in aged care. Curr Med Res Opin. 2018:1-6. (Level 3)

 

 

The author declares no conflicts of interest in accordance with International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) standards. How to cite: Yimei Li, MBBS, MMed, MPH. Evidence Summary. Medication Management in Residential Aged Care. The Joanna Briggs Institute EBP Database, JBI@Ovid. 2018; JBI1629. For details on the method for development see Munn Z, Lockwood C, Moola S. The development and use of evidence summaries for point of care information systems: A streamlined rapid review approach. Worldviews Evid Based Nurs. 2015;12(3):131-8. Note: The information contained in this Evidence Summary must only be used by people who have the appropriate expertise in the field to which the information relates. The applicability of any information must be established before relying on it. While care has been taken to ensure that this Evidence Summary summarizes available research and expert consensus, any loss, damage, cost or expense or liability suffered or incurred as a result of reliance on this information (whether arising in contract, negligence, or otherwise) is, to the extent permitted by law, excluded. Copyright © 2018 The Joanna Briggs Institute licensed for use by the corporate member during the term of membership.

この「JBI─Evidence Summary」を根拠とする、推奨すべき実践ベストプラクティスを以下の書籍で詳しくご紹介しています。

JBI ── Evidence Summary

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『JBI:推奨すべき看護実践

〜海外エビデンスを臨床で活用する

植木慎悟・山川みやえ 編  牧本清子 監修

The Joanna Briggs Institute 協力

日本看護協会出版会 刊行

世界中の膨大な看護ケアに関する文献を収集し、分析と統合を行うJoanna Briggs Instituteのエビデンス情報の中から、日本の各分野のCNSなどが43の具体的な看護場面を取り上げました。わが国の臨床事情を踏まえてコメントと解説を加えた最新のベストプラクティス集です。>> 詳細