「 疾患別典型10事例〜時系列チャート 」の活用法

>> チャートの見かた

山川 みやえ

 

 

多職種による事例検討

 

本書で紹介する「疾患別典型10事例〜時系列チャート」(以下「チャート」)は、認知症をもつ人と家族の変化と専門職のかかわりを事例ごとに時系列で整理し、認知症ケアに携わる多職種でディスカッションを行い作成しました。事例検討の視点は、次のとおりです。

 

 ・認知症をもつ人の各時期での課題を明確にする。

 ・課題に対する専門職のかかわりを振り返り、他の方法についても模索する。

 ・それぞれの事例の抱える問題を現在のケアシステムとからめて問題提起し、どう対応すればよいかを考える。

 

このチャートを通して、認知症をもつ人やご家族が「あ、そうか。こう考えればいいのか」、「こういう専門職もいるんだ。相談してみよう」と思えたり、多職種の方々が「次のサービスには、このようにつなげればいいのか」、「そういうところも勉強してみよう」と考え仕事に役立ててもらえれば、と思いながらつくりました。

 

このチャートを作成するために集まった多職種メンバーは次のとおりです。

 

 ・家族介護経験者、家族会運営経験者

 ・看護師

 ・認知症認定看護師

 ・緩和ケア認定看護師 (終末期の事例のみ)

 ・ケアワーカー

 ・精神保健福祉士

 ・自治体の保健師

 ・在宅ケアのケアマネジャー

 ・ヘルパー

 ・理学療法士

 ・作業療法士

 ・言語聴覚士

 ・かかりつけ医(在宅で往診をしている2事例のみ)

 ・認知症専門医

 ・地域包括支援センターの生活支援相談員

 ・デイサービス併設の特別養護老人ホームのスタッフ

 ・デイサービス併設の特別養護老人ホームの生活相談員

 

このように、制度利用を中心としたフォーマルサポートの現場で活躍している人が主になっています。ほかにもたくさんの専門職やインフォーマルサポートがあるのですが、今回は可能な範囲で集まった職種でメンバーを構成しています(本来ならば、訪問での薬剤師なども入れて然るべきところです。その他にも、たとえば本書で紹介している「caes10」のような接骨院のスタッフや、その他のさまざまな人々〈認知症サポーター、公務員、美容院や郵便局、新聞配達員など〉が「自分たちならどうするか」という意識で、各ケースを見ていただければと思います)。

 

 

チャート活用の目的

 

このチャートを活用する目的は、主に3つあります。まず認知症をもつ人の病気の経過をイメージすること。次に認知症疾患と診断もしくは疑われた時点から、その後どのようにケアやサポート体制を進めていけばよいかをできる限り可視化して、読者のみなさんと共有できるようにすることです。そしてもう1つは、かかわる者同士の状況をアセスメントして適切なケアを継続するための連携を具体的に提案することです。以下に詳しく説明しましょう。

 

[1]病気の経過をイメージする

認知症の症状をもたらす疾患はたくさんありますが、ここではアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症(ピック病、意味性認知症など)、大脳皮質基底核変性症のような根本的治療方法が見つかっていない変性疾患、脳血管性認知症を取り上げています。

 

スピードには差がありますが、ほとんどの病気は進行性です。そのため認知症疾患と診断された後に現れる症状がそれぞれ異なります。ほとんどの専門職は、長い経過のうちある時点で横断的にかかわることが多いはずです。発症からその人をずっとみる経験が乏しい人にとっては、それまでの経過がわかららないため、眼の前にいる認知症をもつ人や家族の状況を十分に理解することができず、うまく対応できないということも起こり得ます。

 

そこで本書のチャートでは、認知症をもつ人それぞれが直面する生活の経過を追いながら、病気の進行に伴って本人や家族にもたらされる変化を俯瞰的に理解できるようにしています。

 

[2]ケアやサポート体制の進め方を可視化する

紹介する事例の特徴をいくつか挙げると、若年性認知症、家族が遠方にいて一人暮らし、身体合併症の影響が強い、終末期、認知症治療病棟に入院、医療にかかっていない、といったものです。もともと個人が送っていた生活の中に認知症が入り込んできますので、それまでの暮らしや人間関係をできるだけ大切にしながら認知症と付き合うことが、認知症ケアの基本的な姿勢です。

 

しかし認知症をもつ人や家族にとって、認知症だと診断されることには、私たちが想像する以上のインパクトがある場合が多いものです。そのため病気とどうかかわっていくのかをある程度イメージすることが重要です。そこで、認知症をもつ人や家族の思いを汲みながらサポート体制を組み立てるうえでの態度や注意事項を提示しています。

 

[3]かかわる者同士の状況をアセスメントし、適切なケアを継続するための連携を考える

認知症の症状は徐々に変化するため、それぞれの局面に合わせて、かかわり方や利用サービスを変えていきます。一般的に、高齢者や認知症をもつ人は居場所を変えないほうがよいと言われています。確かにそうではありますが、本人の状態が変わっていくなかで、周りもやはりそれに合わせて変化していく必要があります。

 

また、介護保険制度を中心とするさまざまなサービスがあるのですから、居場所の変更を前向きにとらえて活用することも現実的です。施設や職種を変えることで、より専門的なかかわりができるとも言えるからです。

 

今回集まってもらった職種をご覧いただければわかるように、かかわりをもつ専門職の種類は決して少なくありません。つまり認知症をもつ人に、よりよい生活を送ってもらうための選択肢は結構あるのです。そうした人たちが常に連携できればよいと思います。

 

本章では、認知症をもつ人と家族の生活が少しずつ変化していくことや、それに伴う専門職の役割と仕事を知ってもらい、当事者の不安や負担が少しでも軽減されることを目的としています。また専門職が当事者のニーズを適切かつ継続的にアセスメントするうえで他職種の役割を理解し、ケアをつないでいくための指標になることを目指して記述しています。加えて、多職種カンファレンスのもち方や他職種との「生産的な」連携について、具体的な方法を提案しています。

特にカンファレンスの持ち方については、第3章でさらに詳しく解説していますのでそちらをご覧ください。

 

 

チャートを用いたアクション:多職種で行う実践

 

このチャートは、読者の皆さんの立場に応じて自由に使ってください。一人で勉強するためやチームで活用してもよいでしょう。もちろん、認知症をもつ人や家族と一緒に利用することも可能です。以下にそれぞれの立場から考えられることを挙げてみましょう。

 

認知症をもつ人

・「もしかすると認知症かもしれない」と疑ったときの相談先と、その際の対処方法(就職先への相談と意思の伝え方など)がわかる。

・自分と同じ認知症疾患の事例を知ることで、漠然とした今後の不安を多少軽減できる。

・どの社会資源を利用でき、誰(専門職)に相談すればよいかわかる。

・専門職の本来の役割がわかるため、かかわる際に付き合い方の参考になる。

・終末期のケアについて、自分自身の選択肢を考えることができる。

 

家族や親しいパートナー

・事例と同じような状況に直面したとき、認知症疾患をもっている人の大まかな経過がわかる。この先をイメージしやすくなるため、少しでも不安を軽減できる。

・認知症をもつ人が置かれた状況を、経過に沿って理解できるため、状況に応じた相談先がわかる(たとえばケアマネジャーなどとプランを相談する際の目安ができる)。自分一人ですべてを背負わずに済み、気持ちの負担を軽減できる。

・専門職の本来の役割がわかるため、かかわる際に付き合い方の参考になる。

・終末期のケアについて、選択肢を家族内で話し合うことができる。

 

専門職

・認知症をもつ人と家族の状況や気持ちを理解できる。

・認知症をもつ人と家族への支援について、地域全体の視点に時間経過を加味して考えるための土台になる。

・チーム全体で目的を共有することができ、その時々の状況に応じた目標を立てることに役立てられる。

・自分自身だけでなく、他職種の役割とそのつながりを理解できる。

・認知症の疾患と治療、ケアについての知識をどのように受け、それをまた他職種に渡していく方法を考えることができる。

・現在受け持っているケースに対して、職種ごとの見地から改善を図ることに役立てられる。

・かかわった結果を評価し、認知症をもつ人と家族も含めたチームで共有できる。

 

 

 

書籍認知症─本人と家族の生活基盤を固める多職種連

第2章「疾患別典型10事例〜時系列チャート」の活用法  より

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