地域ケアの今⑱

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

マスクの季節に思うこと

文:上野まり

今年の冬は、インフルエンザとノロウイルスの流行が当たり年だったようです。大学では、学生・教員・職員が皆マスクを着用しています。街中でもおしゃれな身なりをしつつマスクをつけ闊歩している人に多く出会います。感染症の季節を感じさせる1つの風景なのかもしれません。PM2.5 なる汚染物質による健康被害から身を守るために、誰もが日常的にマスクをしている地域もあるようです。
どのような理由にしても、正直なところ、中高年である私はこの風景にやや違和感を覚えます。職業柄、白衣にマスクをした姿にはまったく違和感がないのですが、最近若いころには感じなかったマスク装着による不都合が気になるのです。

マスクがもたらす不都合

先日、学生の実習指導で病院に2週間行き、白衣にマスクという姿の学生たちと毎日一緒にいました。困ったのは、「誰だかわからない」「声がよく聞きとれない」「マスクを外してと言いにくい」ことです。近視と老眼のためか、普段から人の顔の特徴がつかみにくくさらに記憶力も鈍ってきているので、昔に比べ名前と顔が覚えづらくなりました。髪型や化粧、服装が変わったりすると、何度会っても学生の名前と顔がなかなか記憶できません。そんな状況にもかかわらず、実習では数人の女子学生が同じユニフォームを着てマスクをつけ、実習にふさわしい同じ髪型だったのです。2つの目を見つめて、懸命に誰かを判断するしかありませんでした。

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トシコとヒロミの往復書簡 第18回

本連載では、聖路加国際大学大学院看護学研究科特任教授の井部俊子さんと、訪問看護パリアン看護部長の川越博美さんが、往復書簡をとおして病院看護と訪問看護のよりよい未来を描きます。さあ、どんな未来が見えてくるのでしょう。

川越さんイラスト

川越博美さんから井部俊子さんへの手紙

「賢い消費者」を育てるPR
文:川越博美


2017年もあっと言う間に3月。年を重ねると時が過ぎるのが早いことを実感しています。前号では、それについてピエール・ジャネの説を紹介して説明してくださいました。なるほどと納得しながらも、井部さんや私は、その説による「機械的な日課に転換され」「空っぽになって崩れていく」には当てはまらないと思います。なぜなら私は、刺激的で変化に富んだ今を「どうしてこんなに忙しく仕事をしているのか」と思いながらも楽しんでいますから。時には悠々とした定年退職後の生活をうらやましく感じることもありますが、それでもまだ働くことが許されていることを“看護師”という職業のおかげだと感謝しています。高齢者は75歳からと定義される時代。後輩たちに訪問看護の歴史を語りながら、今という時代に通じる看護師でありたいと、骨粗しょう症の薬を飲みながら日々奮闘している私です。
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ヴァージニア・ヘンダーソン没後20年、生誕120年記念出版 第1弾『看護の基本となるもの』新装刊行!

アメリカの看護理論家ヴァージニア・ヘンダーソン(1897〜1996)の看護理論を学生時代に学んだという方は多いでしょう。2016年はヘンダーソンの没後20年、2017年は生誕120年であり、これを記念して弊社ではヘンダーソン関連の書籍を新装および再編集して記念出版する予定です。

 

その第1弾として、2016年12月に『看護の基本となるもの』を10年ぶりに新装し、刊行いたしました。原著の初版は1960年、邦訳の初版は1961年、それから半世紀以上、看護師たちに連綿と読み継がれてきた本書の生まれた背景とその後の変遷をご紹介します。

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本人も介護者も心地よくなる 「タクティール®ケア」は 信頼感と豊かな出会いを生み出します!

 

 

木本 明恵さん
(きもと あきえ)
日本スウェーデン福祉研究所
シルヴィアホーム認定
インストラクター・リーダー
三育学院カレッジ看護学科卒業後、東京衛生病院に入職。病棟や院内からの訪問看護を経験。
1998年より訪問看護ステーションで
訪問看護師として8年間従事。
2006年より日本スウェーデン福祉研究所に
就職し、現在に至る。
桜美林大学大学院老年学研究科老年学専攻修了。「タクティールケア」と、その根本理念である「認知症緩和ケア理念」の普及のため、セミナー講師等で全国を奔走中。

 

両手でやさしく、ゆっくりとした動きで背中や手足に触れる「タクティールケア」。認知症の人をはじめ、あらゆる人を“心地よく”させるこのケアは、肌と肌の触れ合いによるコミュニケーション方法でもあり、ナース自身も癒される、まさに“看護の原点”に立ち返れるケアといえるでしょう。そのタクティールケアの第一人者である木本明恵さんに、入門書としての本書の活用法などをうかがいました。

■急性期病院での事例も加えて“書籍化”

───本書は、訪問看護師・施設看護職向け専門誌『コミュニティケア』2014年11月臨時増刊号「手で“触れて”痛み・苦しみを緩和する はじめてのタクティール®ケア」が大変好評で“完売”したため、全ページ細部を見直し、新たなパートも加えて、Community Care MOOK シリーズの1冊として書籍化されたものです。具体的に、どのような追加をされたのでしょうか?。

 

今回、追加した新たなパートは5点あります。まず、タクティールケアのセミナーなどで“よく聞かれる質問”を10点ピックアップし、イラストとともに解説しました。「タクティールケアはどのくらいのペースで行うか?」「車いすに座ったままケアを行う方法は?」など、かゆいところに手が届くポイントを紹介しています。

次に、タクティールケアの実践報告が豊富に掲載されている[第4章]において、「救命救急センター」「高次脳機能障害専門クリニック」「鍼灸院」の3つの事例を加えました。特に鍼灸院の報告は、ナースであり鍼灸師である石部春子さんからの報告なので、看護と鍼灸、両方の視点からタクティールケアの効果が論じられており、とても興味深い事例となっています。

そして、私の看護学校時代の後輩でもある元訪問看護師の永井香さんが関節リウマチ患者となったのですが、彼女にタクティールケアを行ってみたところ、とても効果があったため、その経験を報告していただきました。彼女の「ナースだからこそ感じとるタクティールケアの効果」の言葉に、私も新たな気づきを得ることができました。

───救命救急センターは、急性期病院の中でも特に時間に追われる場所ですよね。そんなところでもタクティールケアができるのですか?

その事例は静岡の磐田市立総合病院の認知症看護認定看護師・鈴木智子さんが報告してくれています。もう、これは“百聞は一見にしかず”で、ぜひ本書を読んでみてください! 鈴木さんからは「触れるケアを通して患者さんとナースの関係構築が促進されて、せん妄改善や疾患回復につながるんです」と喜びの声が語られています。急性期の場でも、病棟全体で取り組むことでタクティールケアが可能になる素晴らしい事例です。

■タクティールケアの“驚くべき効果”をぜひ感じてほしい

───では次に、総監修者として、本書の“オススメ”ポイントをぜひ教えてください。

そうですね、最初からいきましょうか。まず、[巻頭カラー]です。介護付き有料老人ホームでタクティールケアを導入しているところのルポと、その後の本文で詳しく解説される「背中・手・足のタクティールケア」の方法がダイジェスト版で紹介されています。ここはやはりカラー写真ならではの臨場感を味わってほしいです。

[第1章]タクティールケアの意義では、パーソンセンタードケアとしてのタクティールケアをはじめ、なぜタクティールケアが今求められているのかを、認知症看護にも詳しい浜松医科大学医学部看護学科の鈴木みずえ教授が解説しています。タクティールケアのエビデンスが明らかになっている必読の章です。

[第2章]医師から見たタクティールケアの可能性では、タクティールケアを実践する2人の医師が、その効果と可能性について医学的見地から解説してくれています。

[第3章]タクティールケアの基礎知識では、私が、タクティールケアの始まり・特長・効果・活用例を解説し、その後、豊富な写真とともに「背中・手・足のタクティールケア」の実際の方法を紹介しています。タクティールケアの本当のスキルは、やはり研修で学んでいただきたいのですが、ここに紹介した方法を、患者さんや利用者さんに見よう見まねで試みていただくだけでも、きっと変化が起こると思います。まず、家族にしてみていただいてもよいですね。

[第4章]タクティールケアを実践してみては、本書で最もオススメの章です。先ほどの急性期病院等のほか、小児科クリニック・精神科病棟・訪問看護ステーション・高齢者ケア施設など13施設での実践が、詳しく報告されています。どの報告でも“触れる”だけで得られる、タクティールケアの驚くべき効果が語られています。

―最後には木本さんの尊敬する川嶋みどり先生からの寄稿もありますね。

はい、川嶋先生は「看護の基本は“手当て”にある」と、手のケアの有用性をずっと指導されてきました。その川嶋先生にタクティールケアの可能性を示唆していただいているので、私も自信を深めることができました。

タクティールケアのいちばんのよさは「リスクがほとんどないケア」であること。だから、本書を参考にして、まずチャレンジしてみていただきたいと思います。

 

地域ケアの今⑯

福祉現場をよく知る鳥海房枝さんと、在宅現場をよく知る上野まりさんのお二人が毎月交代で日々の思いを語り、地域での看護のあり方を考えます。

プロセスを丁寧になぞると、

期待される看護が見えてくるかも?

文:上野まり

 

大昔、私が看護師になったばかりのころ、いや、看護学生のころから「看護過程」には悩みながらも慣れ親しんできて数十年がたちます。未熟なまま過ごしてきたにもかかわらず、それを棚に上げて大学や研修会で、看護過程について教授しているのはなんともお恥ずかしい限りです。
研修会などで出会うベテラン看護師の中にも、未だに看護過程に対する苦手意識が拭えない人は多いようです。看護師という専門職だからこそ最も得意としなければならないはずなのに、なぜこんなに難しいのか……と常々思っています。
 
訪問看護に求められているのは何か
 
先日、「訪問看護過程の展開」をテーマにした研修会に講師として参加しました。研修会では、1つの事例を用いて参加者全員で看護過程を展開することになりました。事例は架空の50代男性A氏。A氏は脳血管疾患の後遺症を持ち、要介護5の寝たきり状態で、複数の医療処置を受けており、今後も自宅で家族と一緒に生活することを希望しているという設定でした。

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